イオンモール熊本の爆発から、まもなく1週間になる。

「金庫にお金を入れないといけないと言われたので戻る」——そう言い残して亡くなった22歳の女性店員が、どこの店の人だったのか。

伏せられ続けてきたその名前が、とうとう表に出た。

2階の雑貨店「ハビタ」である。

ただし、会社が自分の口で名乗ったわけではない。

報道と、遺族の発信によってである。

それどころか、親会社にあたるグループ会社のサイトから、ハビタの名前が消えているという指摘まで出てきた。

  • 「戻れ」につながる指示は、本当にあったのか
  • なぜ名乗るより先に、サイトから名前が消えたのか
  • これは人災として問われるのか

会社の沈黙が長引くほど、疑問ばかりが増えていく。

今回は、この「答えられていない疑問」を僕なりに順番に整理してみようと思う。

指示の有無や会社の対応は調査と取材が続いている段階で、一部は報道と証言をもとにした考察を含むことは先に断っておく。

なお、爆発そのものの謎(タンクは無傷だったのに、なぜ)については前回の記事で書いている。

爆発後のイオンモール熊本
イオンモール熊本の爆発はなぜ…タンク無傷なのにガスが漏れた謎7月28日の令和8年熊本地震から約1時間20分後、熊本県嘉島町(かしままち)のイオンモール熊本で、大きな爆発が起きた。 買い物客およそ...

人災と呼ばれ始めた理由

ネットでは「これは人災だ」という言葉が、日に日に増えてきた。

ただ、この「人災」は、二つの別の話が混ざったまま使われている。

一つは、爆発そのものが防げたのかという話。

こちらはガスの配管や遮断装置の調査待ちで、まだ誰にも答えが出せない。

もう一つは、避難が終わっていたのに、なぜ人が中へ戻る流れが生まれたのかという話。

世間が怒っているのは、ほぼ全部こちらである。

 

そして二つ目の話は、気持ちの問題では終わらない。

働いている人が仕事のために戻って亡くなったのなら、「労災」の話になってくるからだ。

実際、ネットでは労災を心配する声が多い。

原則を言えば、地震のような天災によるケガや死亡は、労災の対象にならないとされている。

ただし、仕事の状況がその危険を高めていた場合は、業務上の災害として認められる

東日本大震災のときも、勤務中に被災した多くの働く人が労災と認められてきた。

つまり分かれ目は、「戻る」という行動に仕事がどれだけ絡んでいたか、である。

私物を取りに戻ったのか、業務として戻ったのか。

 

ここで、気になる話がネットに出ている。

彼女とは別の店で働いていて亡くなった方の遺族が当初、勤め先側から「一度避難した後に建物へ戻っているため、労災が認められない可能性が高い」と説明されたという報告である。

この報告が広がったあと、会社側は労災の手続きに全面的に協力する形になったと伝えられている。

そもそも、労災を認めるかどうかを決めるのは会社ではなく、労働基準監督署である。

会社にできるのは、手続きへの協力と、事実をそのまま話すことだけのはずだ。

声が上がらなければ、どうなっていたのだろうか。

「人災かどうか」は、こうした事実の一つひとつで決まっていく。

その事実をいちばん語れるはずの会社が、黙っている。

名乗らない会社と消えた社名

まず、名前が出るまでの経緯がすでにおかしい。

亡くなった7人のうち3人が働いていた大手アパレルは、会社が自ら死亡を発表し、コメントを出した。

だから社名も店名も、早い段階で報道に出ている。

 

一方、彼女の勤め先である株式会社ハビタは、いまも取材を断り続けている

会社が名乗らないまま、報道と遺族の発信で名前のほうが先に世へ出た——という順番である。

ネットの受け止めは、はっきりしている。

そう読みたくなるのは、自然だと思う。

やましいことがないなら説明するはずだ、というのが普通の感覚だからだ。

 

ただ、沈黙の理由は一つとは限らない。

  • 弁護士に発言を止められている
  • 調査の途中で答えようがない
  • 社内が混乱して、声明を出すどころではない

どれであっても、外から見れば同じ「沈黙」に見える。

説明のない沈黙は、聞き手が勝手に埋めていく。

会議で黙り込んだ人の腹の中が、あとで周りに好き勝手に語られるのと同じである。

 

ところが、この話には沈黙では済まない続きが出てきた。

親会社にあたるグループ会社の公式サイトから、ハビタの社名とリンクが消えていると指摘され始めたのである。

8月2日の昼の時点で消えていたことを確認した、という報告も出ている。

黙っているだけなら、先の三つの理由で説明がつく。

だが、消すのは沈黙ではなく行動だ。

誰かが判断して手を動かさない限り、サイトの記載はひとりでに消えない。

批判が殺到した会社がページを一時的に閉じるのは炎上対応として珍しくないから、隠蔽と言い切る材料はまだない。

ただ、遺族が「真実を」と訴えているさなかに、真実どころか社名まで見えなくなった。

これでは、疑ってくれと言っているようなものだと思う。

では、彼女が戻ってまでやろうとした「金庫にお金を入れる」とは、そもそも何だったのか。

『金庫にお金を』とはどんな作業なのか

あの言葉に引っかかった人は多いはずだ。

金庫とは、どこの金庫なのか。

お店の閉め作業を知っている人たちが、ネットで実務を語っていた。

閉店する店には「レジ締め」という仕事がある。

レジの現金を数えて記録し、売上金を店の金庫や施設の入金機に納める。

大きなモールでも、現金の管理は基本的に店ごとの責任で回っている。

数十分かかることも珍しくない、れっきとした業務である。

 

一方で、こんな疑問も出ていた。

施設側の金庫なのか、店のレジ回りなのか——彼女が向かおうとした場所がどこだったのかまでは、報道からは分からない。

ただ、はっきりしていることがある。

平時なら、この閉め作業をきちんとやる人は「しっかりした店員さん」なのだ。

売上を放り出して帰る人のほうが、注意される側である。

その「いつも通り」が、あの日もそのまま動いてしまった。

彼女は一人の思いつきで戻ったのではなく、同僚とともに戻っている

そして戻ってから約5分後に、爆発が起きたとされる。

 

あの日、逃げなければいけなかったのは、お金ではなく人のほうだった。

 

そしていま、この「言われた」の中身を語る発信が、遺族の側から出ている。

彼女の弟が、ネットで明かした内容だ。

そこには、姉と同僚に対して「レジのお金を金庫に入れて来て」と店長から電話で指示があった、とつづられていたという。

電話での、指示。

もちろんこれは遺族側の発信で、会社からの説明はまだない。

ただ、「頼んだ人はいたのか」という問いは、「誰が、どうやって」の段階まで進んでしまった。

特定の先に待っているもの

店の名前が出たことで、ネットの怒りには、はっきりした宛先ができた。

ハビタの店の口コミ欄には、批判の書き込みが殺到していると報告されている。

そして次に探され始めているのは、会社ではなく、「電話で指示した」とされる個人のほうだ。

ここは、一度立ち止まりたい。

指示が本当にあったのか、あったとしてどんな言い方だったのかは、まだ確認されていない。

そして、確認より先に突き進んだ先に何があるかを、僕らはもう知っている。

2019年、常磐道のあおり運転事件。

犯人の車に同乗していた「ガラケー女」として、まったく無関係の女性がネットで特定された。

間違われた女性には不審な着信が300件、メッセージは1000件を超えた

デマを広めた元市議には、のちに裁判所から賠償命令が出ている。

今回も、もし人を間違えて晒せば、その人の人生は元に戻らない。

指示と無関係の従業員まで、まとめて矛先を向けられかねない。

 

一方で、怒りの渦の中にも、冷静な声はちゃんとある。

この線の引き方が、たぶんいちばん現実的なのだろう。

それに、急がなくても材料は消えない。

スマホの位置情報、通話やメッセージの履歴、一緒に戻った同僚がいたという事実。

「頼んだ」のかどうかを判断する材料は、消えずに残る種類のものばかりだ。

しかも遺族の話が本当なら、指示は電話で行われている。

サイトの記載は消せても、通話の記録は消せない

警察の調べがそこへ届かないことは、まず考えにくい。

つまり、僕らが急いで特定しなくても、事実は残る。

急いで間違えることのほうが、よほど取り返しがつかない。

では、遺族はいま、何を求めているのだろうか。

遺族が求めているもの

報道と親族の話から伝わってくる彼女は、ごく普通の、まっすぐな22歳である。

3人きょうだいの長女。

3年前に父親を亡くし、働いて家族を支えてきたという。

明るくて、素直で、真面目。

推しのアイドルのライブを、楽しみにしていたそうだ。

 

地震のあと、彼女は駐車場で、買い物に来ていたおばといとこに偶然会っている。

二人は止めた。

それでも「会社の人から頼まれた」と言って、同僚と館内へ戻っていった。

親族の男性は、こう語っている。

「素直で真面目な子なので、行かなきゃと思ったんでしょう」

「一度は助かったのに、言葉がない」

母親が娘のスマホに送ったメッセージには、既読がつかないままだという。

同じ気持ちになった人は多いはずだ。

 

ここで、間違えたくないことがある。

責められるべきは、彼女の真面目さではない。

真面目さが命取りになる状況を作った側の話なのだ。

母親の訴えを、もう一度読み返してみる。

「入金のために、お金のために…。会社には真実をはっきり話してほしい」

断っておくが、これは「罰を与えてほしい」ということではなく、「何があったのか教えてほしい」ということなのだ。

娘が最後に選んだ行動の意味を、家族がまだ知らされていない。

その状態のまま、1週間が過ぎようとしている。

 

彼女は最後まで、自分の業務を全うした。

名前が世に出たあとも、その会社は、彼女の家族の問いにまだ何も答えていない

本当の答えを持っているのは、あの日「頼んだ」側にいた人たちだけだ。

もしこの話が真実であるならば、どうか早く誠実な対応をされることを願っている。

 

なお、最新情報では社名も出ているので、新たにこちらの記事を書いたので読んでみてほしい。

ハビタ イオンモール熊本
イオンモール爆発ハビタの隠蔽工作がヤバい…遺族が明かす電話指示 会社の名前が出てから、この話は収まるどころか燃え広がっている。 イオンモール熊本の爆発で亡くなった22歳の女性店員の勤め先、雑貨店...