7月16日の朝、全国のコンビニや駅の改札で、クレジットカードが一斉に使えなくなった。

その数時間後。

名指しされた「CARDNET」は、障害の報告を出しておきながらこう言い切った。

 

「うちの障害ではない」

 

じゃあ、誰のせいなんだ?

ということで、色々調べているうちに面白いことがわかってきた。

今回は、この「原因不明」という言葉の裏で何が起きていたのか、そしてなぜ原因がすぐに出てこなかったのかを、決済の仕組みごとわかりやすく書いていこうと思う。

CARDNET決済障害は本当に「ただの障害」だったのか

まず、何が起きたのかを整理しておこう。

7月16日の朝8時ごろから、三井住友カードやVisaブランドを中心に、全国で「カードが使えない」という報告が一気に増えた。

コンビニ、駅の券売機、飲食店…。

キャッシュレスに慣れきった僕らの生活が、レジの前で機能不全に陥ったのだ。

 

幸い、障害そのものは午前10時40分ごろまでに解消している。

時間だけ見れば、たしかに「短時間で復旧した、ただの障害」だ。

ただ、僕がひっかかったのはここである。

障害を検知して報告を出した当のCARDNETが、その口で「原因は当社ではない」「詳細は分からない」とか言っている。

あん?

報告した本人が「自分は犯人じゃない」と言う——。

この妙なねじれに「何か裏があるのでは」と、僕の好奇心センサーが反応した。

「原因不明」の裏で見えてきた決済の仕組み

ここで、CARDNETが一体何をしている会社なのかを知っておくと、話の理解がスムーズだ。

ひとことで言えば、CARDNETは決済の「中継役」となる存在。

お店の端末と、カード会社と、Visaのような国際ブランドのあいだに立って、「この支払い、通していいですか」というやり取りを取り次いでいる。

いわば、決済という高速道路の交通整理をしている会社である。

 

「自社の障害ではない」ならなぜ?

この「中継役」という立場がわかると、あの妙なねじれの意味が見えてくる。

CARDNETがやっているのは、通り道でエラーがやたら多くなったときに「なんか、いつもよりエラーが多いぞ」と報告を上げることだ。

火事そのものを起こしたのではなく、煙を感知して鳴った火災報知器——CARDNETの立場は、それにいちばん近い。

 

報知器が鳴ったからといって、報知器が火元なわけではない。

だから「障害を報告したCARDNET」と「原因ではないCARDNET」は、矛盾しているようで両立する。

実際、事情に詳しい人たちは、早い段階からそこを見抜いていた。

報知器を火元だと勘違いして責める。

これは決済にかぎった話ではなく、僕らが「最初に目に入ったもの」をつい犯人にしてしまう、というSNS界隈でよく起きるいつものクセでもある。

 

原因がすぐ公表されない本当の理由

では、なぜ朝の時点で「原因不明」としか言えなかったのか。

ここにも、隠したいという悪意より、構造の話が「どどん」と横たわっている。

 

中継役は、通り道が詰まっていることは『検知』できる。

でも、詰まりの大元が高速道路のどのインターチェンジなのかまでは、その場ではわからない。

 

「検知できること」と「原因を特定できること」は、まったく別というわけだ。

 

しかも、上流には自分たちの取引先である巨大な国際ブランドがいる。

裏どりもできていない段階で「たぶんあそこが悪い」とは、口が裂けても言えない。

だから「詳細は分からない」という、いちばん角が立たない言葉で時間を稼ぐしかなかった。

もどかしいが、まあ、立場を考えれば無理もない話ではある。

「国際ブランドが原因説」はどこまで本当?

「CARDNETが火元じゃないなら、大元は国際ブランドじゃないのか」。

じつは、公式の発表を待たずに、ネットではこの推測がかなり早い段階から飛び交っていた。

そして結論を先に言ってしまうと、この読みは当たっていた

面白いのは、素人まじりのネットの推測が、公式発表よりも先に核心を突いていたという点である。

 

なぜVisaの名前が挙がっているのか

報告を見ていると、使えなくなったカードはVisaブランドと三井住友カードに集中していた。

三井住友カードはVisaとの結びつきが強いから、Visa側の通り道で詰まりが起きると、まっさきに影響が出やすい。

それで「Visaが怪しい」という声が、自然と大きくなっていったわけだ。

 

この「なんとなくVisaっぽい」という空気を、はっきり言葉にした投稿もあった。

「うちの障害ではない」というひとことを手がかりに、大元を国際ブランドだと見抜いている。

報知器が鳴っているのに火元じゃないと言うなら、火は別の場所で起きている——そう考えるのは、むしろ筋が通っている。

 

公式発表から見えてきた違和感

そして夕方になって、その推測を裏づける発表が出た。

Visaの日本法人が、子会社で決済システムを担う「Cybersource(サイバーソース)」で、取引処理のタイムアウト事象が発生していたと明らかにしたのだ。

タイムアウトというのは、一定の時間が過ぎても処理が終わらず、途中で強制終了されてしまう現象のこと。

レジで「ピッ」と鳴るはずのところが、いつまでも待たされて止まってしまった、その正体がこれである。

 

ただ、僕がここで少しだけ引っかかるのは、その順番だ。

朝いちばんに騒ぎになり、昼には現場が混乱し、大元が認めたのは夕方だった。

末端の僕らがいちばん先に困り、大元の説明はいちばん最後に届く

この時間差は、犯人捜しよりもよほど、いまの決済の危うさを表している気がする。

ニチレイのサイバー攻撃との関連はあるのか

ここで、多くの人が同じことを思ったはずだ。

「そういえば、この前ニチレイもやられてなかったか?」

数日前、冷凍食品大手のニチレイがサイバー攻撃を受け、物流が止まってKFCの一部販売休止などに波及したばかりだった。

その経緯はこちらで詳しく書いている。

https://taichimaster.jp/japan-cyber-target/

ニチレイとの共通点は何だったのか

ニチレイが7月13日、今回のカード障害が7月16日。

わずか3日違いで、物流と決済という生活の急所が続けて止まった

しかも初動はどちらも「調査中」「原因不明」から始まっている。

これだけ並べば、「偶然にしてはできすぎだ」と身構えたくなる気持ちは、よくわかる。

ただ、中身をよく見ると、この二つは性質がまるで違う。

ニチレイは、外部からの不正アクセスによるサイバー攻撃だと公式に認められた事件だ。

いっぽうのカード障害は、いまのところ攻撃の痕跡は出ておらず、Visa側の処理のタイムアウトという、システム内部のトラブルとして説明がついている。

  • 片や、外から殴られた事件
  • 片や、中の人がつまずいた事故

時期が近いだけで、種類の違う話が、たまたま隣り合っただけなのだ。

 

PayPayまで止まった同じ日

と、ここまで書いていたら、話がもう一つ増えた。

同じ7月16日の午後、今度はPayPayで「決済できない」「明細が見れない」という不具合の報告が相次いだのだ。

 

おいおい、勘弁してくれ。

朝はカード、午後はPayPay。

一日のうちに、財布の中身が二度も使えなくなったことになる。

ここで「じゃあ全部つながってるんじゃないか」と言いたくなるところだが、そこは慎重に見ておきたい。

朝のカード障害は、午前10時40分ごろにはもう解消している。

そのあとしばらく経ってからPayPayが止まっているので、時間だけ見れば、Visaのタイムアウトがそのまま尾を引いたとは言いにくい

 

そしてPayPay側からは、いまのところ原因の説明が出ていない。

つまり、この二つに関係があるのかどうかは、まだ誰にもわからないというのが正直なところだ。

ネットでも「クレカの次はPayPayかよ」という反応が中心で、犯人が判明したという話にはなっていない。

 

ただ、関係があろうとなかろうと、僕らの側に残る事実は一つである。

この日、スマホと財布の両方が、順番に使えなくなった

 

「日本が狙われている説」は本当にあるのか

とはいえ、「日本が狙われているのでは」という不安を、頭ごなしに笑い飛ばす気にもなれない。

ここは仮説として、少し真面目に考えてみたい。

 

もし本気で日本の経済を揺さぶりたい相手がいるなら、決済と物流は、たしかに一番効く急所だ。

財布とトラックを同時に止めれば、街はあっという間に混乱する。

実際、日本の企業を狙ったサイバー攻撃がこのところ増えているのは、報道でも繰り返し指摘されている事実である。

 

ただ、今回にかぎって言えば、その線は薄い。

カード障害の正体はVisaの内部トラブルで、攻撃者の影は出てきていないからだ。

PayPayのほうも、いまのところ外部からの攻撃をうかがわせる話は出ていないし、PayPayの通信障害に関しては今に始まった話でもない。

「日本が狙われている」という大きな不安は、こういう別々のトラブルが重なった日に、いちばん膨らみやすい。

だからこそ、一件ずつ正体を確かめていくことが、いちばんの落ち着き薬になるのだと思う。

まとめ:原因がすぐ公表されない本当の理由

こうして並べてみると、「原因不明の裏にある本当の理由」は、案外あっけない。

誰かが隠していたのではなく、中継役は詰まりを検知できても、大元を特定する立場にはいなかった

ただそれだけのことだった。

 

それでも、この一日が残したものは小さくない。

カード一枚で生きている僕らの毎日が、じつは何段にも積み重なった仕組みの上でかろうじて回っていること。

そして、その一段がつまずくだけで、朝の街がまるごと止まってしまうこと。

ニチレイのシステム障害もそうだが、そういう便利さの裏側をのぞかせてもらった一日だったと言えよう。

しかも今回は、それを一日に二度も見せられたわけである。

犯人を捜すのも、日本の行く末を心配するのも、それはそれで人間らしくていい。

ただ、その前に。

財布の片隅に、千円札を何枚か戻しておく。

そんな地味な備えが、案外いちばん頼りになるのかもしれない。