この騒動でいちばん人を安心させ、同時にいちばん人をモヤモヤさせている言葉がある。

「検査は陰性だった」だ。

週刊誌に売人との写真が出た矢野雅哉、小園海斗、田村俊介の3人は、検査で陰性だったと伝えられている。

それなのに矢野は7月17日に一軍の登録を外され、7月30日には自宅へ警察の捜索が入った。

 

一方で、あの集合写真が撮られたのは2025年5月2日と報じられている。

そしてゾンビたばこ──エトミデートが指定薬物になったのは、その24日後の5月26日だと伝えられている。

写真の日には、まだ法律が追いついていなかったことになる。

 

陰性なのに疑われる選手がいて、写真の日付は法律の線の手前にある。

それでも、疑いは晴れない。

この事件が厄介なのは、白黒をつけるための道具が、どれも中途半端にしか使えないところだ。

今回は「残りの5人は誰だ」という名前当てには乗らずに、検査・日付・令状という三つの物差しを順番に当てながら、なぜこの件がいつまでも決着しないのかを書いていく。

ネットで飛び交う噂レベルの話も一部含んだ考察になることは、先に断っておく。

「陰性」なのに疑いが晴れないのはなぜか

まず、この半年で何度も出てきたあの言い回しから見ていきたい。

球団の説明である。

ここを丁寧に読むと、ファンがなぜ安心できないのかが、わりとはっきりしてくる。

 

球団が言ったのは「やっていない」ではない

球団本部長の鈴木清明は、この件でずっと同じ言い方を続けてきた。

「使用した事実は確認できていない」

読み流してしまいそうな一文だが、ここは立ち止まったほうがいい。

「やっていない」と「確認できていない」は、まったく別のことを言っている

前者は否定であり、後者は報告だ。

調べた範囲では出てこなかった、という以上のことは何も言っていない。

 

では、その「調べた範囲」はどこまでだったのか。

じつは、そこがいまだにはっきりしない。

羽月隆太郎の逮捕のあと、球団は全選手へ注意を促し、心当たりのある者は申し出るよう呼びかけたと報じられた。

手を挙げた選手は、いなかったという。

そして羽月が公判で「周りにも吸っているカープの選手がいた」と話したあと、球団は全選手を対象に改めて調べたとされている。

 

だが、そのとき何をどう調べたのかは、公表されていない

聞き取りだけだったのか。

尿を採ったのか。

髪の毛まで調べたのか。

そこが分からないまま「確認できていない」と言われても、ファンが安心しきれないのは当たり前だと思う。

 

ちなみに週刊誌には、球団の聞き取りに対して矢野が曖昧な答えに終始し、松田元オーナーが激怒したという話まで出ている。

これが本当なら、球団の内側でも「確認できていない」で終わらせていなかったことになる。

 

尿検査は「いつ採ったか」で結果が変わる

ネットでは、「陰性だったのだからセーフだろう」という声と、「あの陰性に意味はあるのか」という声が、同じ検査結果を根拠にぶつかっている。

「矢野雅哉、小園海斗、田村俊介は今更明らかになって検査をして陰性だからセーフ? お咎めなし?」

この投稿は9万回以上表示された。

これだけ伸びたのは、多くの人が同じところで引っかかっていたからだろう。

 

薬物の検査には、必ず「さかのぼれる期間」というものがある。

尿で分かるのは、そう遠くない過去だ。

成分によって差はあるが、日をまたぎ、週をまたげば、痕跡は薄れていく。

ましてエトミデートは、もともと手術の麻酔に使われる薬である。

体の中に長く居座るような性質のものではない。

 

つまり、肝心なのは陰性か陽性かではなく、いつ採った検体なのかだ。

写真が撮られたのは2025年の5月。

羽月の逮捕は2026年の1月。

球団が動いたのは、そのあとである。

もし仮に、写真の日に何かがあったとしても、半年以上たった尿から、それが出てくるとは考えにくい。

 

髪の毛を使えば、もっと長い期間をさかのぼれると言われている。

だが、球団がそこまでやったという発表はない。

「陰性」という言葉は強く聞こえるのに、その中身が何ひとつ公開されていない

だから擁護する側も批判する側も、同じ「陰性」を持ち出しては、いつまでも噛み合わないままになっている。

 

そして説明が足りないと、人は自分で答えを探しにいく。

写真を引き延ばし、選手の手元をのぞき込む。

NPBのドーピング検査は、この薬を探していない

ここで、もうひとつ整理しておきたいことがある。

「プロ野球はドーピング検査をやっているのに、なぜ見つからなかったのか」という疑問だ。

じつはこれ、検査が甘かったという話ではない。

 

NPBが公開しているアンチ・ドーピングの手引きを読むと、検査は試合の途中に、抽選で選ばれた選手に対して行われる。

全員が、毎試合、調べられているわけではない。

そして何より、あの検査が探しているのは、競技の成績を不正に上げる薬である。

筋肉を大きくするもの、持久力を引き上げるもの、そういう類のものだ。

 

ゾンビたばこは、それとまるで逆の薬だ。

意識をぼやけさせ、手足を震わせ、まともに歩けなくする。

プレーの役に立つどころか、選手としての体を内側から壊していくものである。

スポーツの世界が長い時間をかけて作ってきた網は、成績を上げるズルを捕まえるためのもので、自分を壊す薬を見つけるためのものではない

 

だから、毎年ドーピング検査をくぐってきたことは、この件の潔白の証明にはならない。

網の目の大きさが違うのだから、すり抜けたというより、そもそも掛かっていなかったという話に近い。

 

Xでは「なぜ全球団の選手を検査しないのか」という声も出ていた。

「なぜに全球団選手コーチ関係者を血液検査しないんでょうか? スキャンダルを恐れて? 逆に膿を出して新たな球団の良いと思ってます。」

気持ちは、よく分かる。

ただ、これを本当にやるなら、選手のプライバシーや労使の取り決めをどうするのかという、別の重い話が始まってしまう。

そう簡単な相談ではない。

それでも、いまの仕組みでは薬物の乱用を見つけられないという事実だけは、この騒動がはっきり突きつけてしまった。

写真は5月2日、法律が変わったのは5月26日

検査でだめなら、もうひとつの物差しを当ててみたい。

日付である。

この二つの日付の間には、思ったより大きな意味が挟まっている。

 

24日のずれが意味すること

SmartFLASHが載せた集合写真は、2025年5月2日の撮影と報じられている。

そしてエトミデートが指定薬物になったのは、同じ年の5月26日だと伝えられている。

5月2日 → 5月26日

その差は、24日。

 

ここを根拠に「写真の時点では違法じゃない」と指摘する声は、Xでは早い段階から出ていた。

指定される前のことを、いまの法律でさかのぼって裁くことはできない。

これは法の大原則で、指摘そのものは正しい。

 

ただ、この物差しも諸刃だと思う。

羽月が使ったとされるのは2025年の年末だ。

指定から、半年以上たっている。

そして羽月が「周りにも吸っている選手がいた」と話したのも、その時期の話としてである。

写真の日付が指定前だからといって、その後の話まで白になるわけではない

逆に言えば、写真の日付は有罪の証明にもならない。

日付という物差しも、結局そこで止まってしまう。

 

それでも写真がきついのは、日付の問題ではない

では、あの写真は無意味なのか。

そうは思わない。

ただし、きついのは「違法な時期に写っていたから」ではないのだ。

 

写真の真ん中にいたのは、のちに薬物を譲り渡した罪で起訴される滝口涼介被告である。

そして報道によれば、この人物は選手や企業を引き合わせる「アテンダー」として動いていたとされる。

選手と撮った一枚は、こういう人間の手に渡ると、次の相手へ近づくための名刺になる。

指定薬物になる前だろうと後だろうと、そこは何も変わらない。

問われているのは違法性ではなく、誰に自分の名前を使わせていたかである。

 

しかも週刊誌によれば、矢野と滝口被告のあいだには、会う日程をやり取りしたLINEまであったと報じられている。

写真の場所も、集合写真の一枚きりではない。

六本木の会員制のシーシャバー、遠征先のホテルの部屋。

報じられている中身が本当なら、「たまたま同じ場にいた」では説明が足りなくなってくる

もちろん、これは週刊誌が書いていることであって、球団も本人も認めた話ではない。

ただ、日付の物差しを当てて「指定前だからセーフ」と言うだけでは、この部分はまったく片づかない。

 

写真に写っていた側の説明も、いちおう出ている。

実業家の溝口勇児は7月13日、写真を撮ったことを認め、滝口被告を「プロ野球選手のコンサルをしている人物」と聞いていたと説明した。

ファンサービスのつもりで応じた、という趣旨である。

一枚だけなら、その説明で通ると思う。

ただ、この件で本当に説明が要るのは、写真を撮った理由ではない。

その部屋に、誰が誰を呼んだのかである。

 

もっとも、店へ行ったこと自体を責めるのは違うだろう、という声も根強い。

この言い分にも、うなずけるところはある。

夜の店に出入りしただけで人格を疑われるなら、たいていの選手が引っかかってしまう。

だからこそ、線を引くべきは店でも写真でもなく、相手が誰だったのかという一点なのだと思う。

令状が出たことの重さと、抹消された選手の立場

そして7月30日、話は検査でも日付でもない場所へ移った。

広島県警本部が、内野手の矢野雅哉と前川誠太の居宅や球団寮などを捜索したのだ。

 

家宅捜索には、裁判官が出す令状がいる。

警察が思いつきで人の家に入れるわけではなく、疑うだけの理由があると裁判官が判断したから、紙が出る。

Xでも、そこに気づいた投稿が伸びていた。

ただ、令状は捜索を許す紙であって、有罪を決める紙ではない。

何が押収されたのかも、そもそも何を探していたのかも、いまのところ公表されていない。

だから、この時点で「二人はクロだ」と言うのは早すぎる。

 

警察が探しているのは、球団が探せなかったもの

それでも、この令状には別の意味がある。

ここまで当ててきた物差しの中で、これだけが、体の外に残ったものを見にいけるのだ。

 

捜索の目的は、証拠を保全することにある。

薬物の現物や、吸うための器具。

そして、スマホやパソコンに残ったやり取り、金の動いた記録。

 

ここが、球団の調査との決定的な違いだと思う。

球団にできたのは、聞き取りと、本人の体を調べることまでだった。

そして体の中の痕跡は、時間がたてば消えていく。

半年前のことは、もう尿からは出てこない。

 

だが、やり取りの履歴は、半年たっても消えない

誰と、いつ、どこで会う約束をしたのか。

金が動いたのかどうか。

体が忘れても、機械は覚えている。

 

「確認できていない」という球団の言葉が宙に浮いたままだったのは、体の中しか見られなかったからでもある。

今回はじめて、まともに機能しそうな物差しが出てきたということだ。

もっとも、そこで出た答えが僕たちに知らされるかどうかは、また別の話だが。

 

同じ日に捜索されても、二人の疑いは出どころが違う

もう一つ、見落とされがちなことがある。

矢野と前川は同じ日に同じ手続きを受けたが、疑いの出どころは、まるで違う

 

矢野のほうは、材料がすでに表に出ている。

写真があり、LINEの報道があり、球団の聞き取りへの受け答えまで書かれた。

順番としては、報道が先にあって、球団が動き、そのあとに警察が来ている。

 

前川は、そのどれもがない。

写真に写っていない。

滝口被告との関係も報じられていない。

前日まで一軍の練習に出ていて、翌朝に令状が来た。

つまり前川については、僕たちが知らないところで材料が積まれていたということになる。

 

この違いは、けっこう大きい。

ネットの疑いと、警察の疑いは、そもそも別のところを見ているのだ。

写真をどれだけズームしても、前川の名前は出てこなかったのだから。

 

実際、7月30日のあとネットでは「なぜ前川なのか」の説明が探され、選手のインスタグラムのフォロー関係まで持ち出された。

溝口勇児をフォローしている選手を並べた、という指摘である。

気持ちは分かるが、フォローは物差しにすらならない

相手の許可も要らず、会ったことがなくても押せるボタンだ。

あれで人を並べていいなら、この国の大半の人間が並べられてしまう。

 

小園と田村は、なぜそのままなのか

ここで、どうしても引っかかるのが残りの二人だ。

写真に写っていたと報じられた小園海斗と田村俊介は、7月30日のあとも一軍に残っている。

矢野は写真という疑念で球団が外し、前川は警察が令状を取ったことで外れた。

その二つの理屈のどちらにも、いまのところ当てはまらない、ということなのだろう。

 

もっとも、一部の報道では球団の内側の事情まで書かれている。

主力を欠いたときの戦力への影響や、選手会の反応を考えると踏み込めない──という書かれ方だ。

これが本当かどうかは、僕には確かめようがない。

 

ただ、そう書かれてしまう時点で、球団は線引きの説明に失敗している

基準がはっきりしていれば、こういう推測の入り込む隙はない。

説明のない空白は、たいてい「大人の事情」で埋められてしまうのだ。

 

白だった場合の話を、誰もしていない

そして、ここでもう一つ、あまり語られていない側の話をしておきたい。

もし何も出てこなかったとき、外された名前は誰が戻すのかという話である。

矢野は7月17日に一軍の登録を外された。

球団はこれを罰ではないと説明している。

疑念のある選手を一軍でプレーさせることに抵抗がある、というのが理由だった。

前川は7月30日、捜索の当日に登録が消えた。

前日まで、マツダスタジアムで一軍の全体練習に出ていたという。

 

罰ではない、という説明は、たぶん本当なのだろう。

だが、外から見えるのは、名前が消えた事実だけである。

クロだったなら、それは自分で招いたことだ。

しかし白だった場合、この数か月に貼られたものは、どこへ返せばいいのだろう。

疑いというのは、晴れても消えない

そこが、この手の話のいちばん怖いところだと思う。

白黒がつかないからこそ、言葉で線を引くしかない

ここまで見てきたとおり、この件を白と黒に分ける道具は、どれも欠けている。

尿の検査は、遠い過去までさかのぼれない。

ドーピング検査は、そもそもこの薬を探していない。

写真の日付は、法律の線をまたいでいる。

令状は疑いの重さを示すが、答えではない。

 

だとすれば、残る手立てはひとつしかない。

球団が、自分の言葉で線を引くことである。

 

謝罪は、もう出ている。

7月30日には松田元オーナーが「申し訳ない」と頭を下げ、懸命にやっている選手のことを考えるとつらい、涙が出る、とまで語ったと報じられた。

気持ちのこもった言葉だと思う。

だが、そこで語られたのは心情であって、物差しではない。

そして出てきたのは、いまも囲み取材のコメントと発表文であって、正式な会見ではない。

会見をしたところで、疑いが消えるわけではない。

それでも、何をどこまで調べたのか、なぜこの選手は外してあの選手は残したのか、その基準を口に出すことはできる。

やっていないことを証明するのは難しいが、どう調べたかを説明するのは、やろうと思えばできる

 

「確認できていない」という言い方のまま夏を越えれば、ファンは自分で答えを埋めにいく。

名前当ての検索が伸びて、写真がズームされて、関係のない選手まで疑われる。

すでに、そうなりかけている。

この騒動でいちばん削られているのは、選手の名前でも球団の成績でもないのかもしれない。

「この球団の言うことは、たぶん本当だろう」という、ふだんは意識もしない前提のほうである。

そこを取り戻すのに、検査も写真も令状も要らない。

必要なのは、順を追って話す言葉だけなのだと思う。

ゾンビたばこはカープだけ?売人の「40人」発言と球界の不安
ゾンビたばこはカープだけ?売人の「40人」発言と球界蔓延の噂について ゾンビたばこの一件は、どうやらカープだけの話では終わらないのかもしれない。 元カープの羽月隆太郎が「自分を含めて6人が同じ人物から...
広島カープ・ゾンビたばこ騒動…溝口勇児との交友が嫌がられる理由
広島カープ・ゾンビたばこ騒動…溝口勇児との交友をファンが嫌がる理由いま広島カープが、たばこの煙にすっかり包まれてしまっている。 きっかけは、元内野手の羽月隆太郎が「ゾンビたばこ」に手を出して逮捕された...