ゾンビたばこの一件は、どうやらカープだけの話では終わらないのかもしれない。

元カープの羽月隆太郎が「自分を含めて6人が同じ人物から買った」と話したと報じられ、その売人とされる滝口涼介被告は、知人に「広島だけじゃない、プロ野球選手を40人ほど抱えている」と豪語していたという。

滝口被告を「被告」と呼ぶのは、羽月へゾンビたばこを譲り渡した罪で起訴され、いま刑事裁判の被告人として報じられているからだ。

そして警察の捜査も、すでに広島の外へと向かっているらしい。

僕がこの話でいちばん引っかかっているのは、羽月ひとり、カープという一球団の問題として片付けられそうにない、というところだ。

去年の球界に、これとよく似た道をたどった騒動があったのを思い出したからである。

今回は「ゾンビたばこはカープだけなのか」というネットのざわつきを、はっきり報じられた事実と、まだ噂の域を出ない話とに分けながら、球界全体の話として眺めていこうと思う。

売人が漏らした「40人」という数字の重さ

羽月の一件が明るみに出たときは、多くの人がまだ「元選手ひとりの、気の迷い」くらいに受け止めていたはずだ。

ところが、売る側の口から出てきた数字が、その空気をがらりと変えてしまった。

6人⇒40人

この二つの数字がどこから出てきたのか、そして警察の目がいまどこを向いているのか。

まずはそこを、順番に整理していきたい。

 

羽月の「6人」と、売人が語った「40人」

羽月隆太郎は、指定薬物エトミデートを医療目的以外で使った罪に問われた。

エトミデートは、乱用すると意識が濁ってゾンビのようになることから「ゾンビたばこ」と呼ばれている。

その羽月が、動画で「自分を含めて6人が同じ人物から買った」と話したと報じられた。

名前までは出していない。

それでも「6人」という数字だけが、先に一人歩きを始めた。

 

さらに引っかかるのが、売る側の言い分のほうだ。

ある報道によれば、滝口被告は知人に対して「広島だけじゃない、プロ野球選手を40人ほど抱えている」と語っていたという。

 

もちろん、これは売人の側が誰かに漏らしたとされる話であって、40人の中身がひとつずつ確かめられたわけではない。

自分の商売を大きく見せたい人間が、話を盛ることだってある。

では、40人という数字は、ただのハッタリで済ませていいのだろうか。

 

ただ、被害者側から出てきた6人と、売人側から出てきた40人。

どちらを軸に置いて考えても、「カープの中だけで完結した話」という前提は、もう成り立たなくなっている

警察の目が西日本の他球団へ向いている理由

数字だけなら、まだ「威勢のいい大ぼら」で片付けることもできる。

だが、動き出しているのは警察のほうもだ。

報道では、同じ売人から同じ経路でゾンビたばこを手に入れた選手が広島以外の球団にもいるとみて、西日本の選手を中心に調べを進めているという。

広島の一球団から始まった話が、いつのまにか「西日本の選手」という、ずいぶん広い網で語られ始めている。

 

ここで忘れたくないのは、まだ誰ひとり、他球団の選手の名前は挙がっていないという点である。

名前が出ていない段階で「あの球団も」「あの選手も」と当てにいくのは、ただの犯人捜しごっこでしかない。

僕が気になっているのはそこではなく、一人の売人が複数の球団に手を伸ばせる商売の形そのものが、すでにできあがっていたらしい、という一点である。

薬物を売りさばく相手を探すだけなら、40人もの選手とのつながりなんて要らない。

そのつながりが本当にあったのだとすれば、これは「たまたま広島の選手が捕まった」のではなく、「たまたま広島の選手が先に捕まった」だけなのかもしれない。

カジノ騒動が教える「1人の名前」の後に起きること

ここで、去年の球界を騒がせた、もう一つの出来事を思い出してほしい。

オンラインカジノの問題だ。

あのときも、最初に名前が出たのはたった一人だった。

そこから先の展開が、いまのゾンビたばこの構図と驚くほど似ている。

 

山岡泰輔だけが実名を公表された2025年の記憶

2025年の春、芸能界から広がったオンラインカジノの騒動が、プロ野球界にも飛び火した。

球界で最初に名前が出たのは、オリックスの山岡泰輔だった。

2月、球団は山岡が過去に違法なオンラインカジノを使っていたことを認め、活動自粛を命じている。

いわば、球界における「第1号」だ。

いま振り返れば、あのときの世間の受け止めも「一人の選手の、脇の甘さ」だった。

ところが、話はそこで終わらなかった。

 

蓋を開けたら8球団16人だった

たった一人の問題で終わる話なら、NPBがわざわざ全球団へ声をかけたりするだろうか。

山岡の名前が出たあと、NPBは各球団に自主申告を呼びかけた。

その結果、最終的に名乗り出たのは8球団16人

制裁金の総額は1020万円にのぼり、出場停止のような重い処分は、結局のところ一つもなかった。

一人の名前から始まって、蓋を開けてみれば、球界のあちこちで同じことが起きていた。

これがカジノ騒動の、実際のところである。

 

しかし、実名が公表されたのは、最初に出た山岡ただ一人。

残りの15人は、球団名すら伏せられたまま終わっている。

ネットでは「なぜ山岡だけがさらし者なのか」「公表するなら全員だろう」という声が渦を巻いた。

山岡がとりわけ厳しく処分された裏には、球団の親会社の事情があったとも報じられている。

同じことをしても、たまたま所属した球団の都合ひとつで、名前をさらされる者と守られる者に分かれてしまう

この、名前が出る者と出ない者のあいだにある線引きの理不尽さは、いまの「6人のうち羽月だけ」という構図に、そっくりそのまま重なって見えてくる。

先に名前が出た一人が、みんなの分まで矢面に立たされる。

テストでカンニングがばれたとき、たまたま最初に見つかった一人だけが職員室に呼ばれ、あとの数人は素知らぬ顔で席に座っている——あの、いやな感じによく似ている。

なぜ「アテンダー」は1球団に留まらないのか

カジノとゾンビたばこには、もちろん違いもある。

かたや賭博。

かたや薬物。

罪の性質も、話としてはまったく別のものだ。

それでも、両方の背景に共通して効いているものがある。

選手と選手、選手と外の世界とをつなぐ「人の輪」である。

 

今回の騒動で「アテンダー」という言葉が飛び交っている。

要は、著名人や選手、店や企業のあいだを取り持ち、引き合わせること自体を仕事にしている人のことだが、滝口被告もそのアテンダーだったと報じられている。

報道によれば、滝口被告自身も、もとは高校で外野を守っていた野球少年だったという。

肩を壊して選手の道は断たれ、それでもあきらめずにアメリカの独立リーグへ挑戦したこともあったらしい。

 

夢が破れた側の人間が、夢のなかにいる選手たちのすぐそばへ、今度はまったく別の顔で戻ってくる。

その距離の近さこそが、この商売の入口だったのだとしたら、なんとも皮肉な話ではある。

紹介そのものが商品になる仕事だから、その相手は一球団には閉じない

むしろ、あちこちの球団やジャンルに顔が広いほど、商売としての値打ちが上がっていく世界である。

言い換えれば、選手と撮った一枚の写真すら、この人たちにとっては次の商談を呼び込む立派な名刺になる

 

「40人抱えている」という言葉が、もし本当にこの人脈のことを指していたのなら、その網が広島だけできれいに完結していたと考えるほうが、かえって不自然だろう。

薬物を配る前に、まず人脈という土台があった。

その土台の上を、薬物が横へ横へと滑っていく。

怖いのは、薬のやりとりそのものよりも、この横のつながりのほうなのかもしれない。

カープファンだけでなく、12球団のファンが知りたいこと

いまカープファンが感じている居心地の悪さは、たぶん他球団のファンにとっても、まるきりの他人事ではない。

「うちの球団は、大丈夫なのか」

ゾンビたばこの話を追いかけている人の胸の内は、突き詰めれば、この一言に尽きると思う。

贔屓の選手が次々と画面から消えていく——そんな去年のカジノのときの光景を、もう一度見たいファンなど、どこの球団にもいない。

 

もちろん、まだ誰の名前も挙がっていない以上、他の11球団を頭から疑ってかかるのは筋が違う。

だが、カジノのときに一度見せられた「蓋を開けたら球界全体だった」という光景を、僕らはもう知ってしまっている。

だからこそネットでも「後手に回るな」「11球団とも他人事と思わずに調べたほうがいい」という声が出てきているのだろう。

一度出遅れて、あとから小出しに名前が出てくるのが、いちばん球界の信用を削っていく

カジノのときに味わった、あの後味の悪さを、もう一度なぞる必要はどこにもない。

 

この先、羽月の言う「6人」の残りや、売人の言う「40人」の実像が、どこまで明かされていくのかは、いまはまだわからない。

静かに幕を引くのか、それともカジノのときのように、球界全体を巻き込みながら広がっていくのか。

どちらへ転ぶにせよ、次に出てくるのが「また一人、生贄を差し出しました」ではなく、きちんと筋の通った説明であってほしいと願っている。

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