「平成女児クリエイター」として活動するYouTuberのまーちゃろが、案件詐欺で100万円を超える被害に遭い、口座の貯金をほぼ全額失ってしまった。

企業からのPR案件だと思って話を進めていたら、いつのまにか自分のお金のほうが吸い取られていた——という、聞いているだけで胃が痛くなる話である。

 

正直に言うと、僕も詐欺に遭ったことがあるので、このニュースを「うっかりした人が引っかかった話」として読むことができなかった。

手口を追っていくほど、これはむしろ、きちんと下調べをする真面目な人ほどハマるように出来ている、とわかってきたからだ。

犯人はまだ捕まっておらず、捜査中ということもあって、伏せられている部分も多い。

それでも今回は、まーちゃろを飲み込んだ「信用スコア詐欺」のカラクリと、なぜこれが僕らみんなにとって他人事じゃないのかを、わかりやすく解きほぐしていこうと思う。

まーちゃろを飲み込んだ案件詐欺の一部始終

まず、何が起きたのかをざっと整理しておきたい。

はじまりは、6月の終わり。

Instagramのダイレクトメッセージに、ある美容系企業の広報を名乗る人物から連絡が入った。

「弊社の商品のPRをお願いしたい、詳しくはLINEで」という、よくある案件のお誘いである。

 

ここで「怪しい」と身構えられたら、そもそも苦労はない。

だが、まーちゃろは過去にも同じ流れ——DMが来て、LINEに移って、ちゃんとした案件になる——を何度も経験していた。

つまり彼女にとって、この入り口は「知っている道」だったのだ。

地図を持っている道を歩くとき、人はいちいち足元を確認しない。

 

LINEに移ると、話はやけにいい条件で進んでいく。

3ヶ月にわたって動画やストーリーを投稿する、報酬は前払い。

案件をやる側からすれば、前払いというのは何よりの安心材料だ。

「お金を先に払ってくれるなら、この会社は本気だ」と、つい信じてしまう。

 

そして、企業とインフルエンサーをつなぐという「プラットフォーム」への登録をうながされる。

上場企業がやっているサービスで、名だたる企業も登録している——まーちゃろは事前にそこまで調べて、確認までしている

契約書もサイトも、本物としか思えない体裁だった。

ここで彼女は、個人情報と受け取り用の口座を登録し、電子契約にサインをした。

 

お気づきの方もいるだろうが、興味深いのは、この時点でまーちゃろが「危ないこと」を何ひとつしていない、というところである。

むしろ、疑って、調べて、確認している。

詐欺というと、うまい話に目がくらんで冷静さを失った人が引っかかる、というイメージがある。

だが今回はまったく逆だ。

真面目に確認する人の「確認する癖」そのものを、逆手に取られている。

 

この一部始終を、まーちゃろは自分の口から包み隠さず公開している。

ほぼ全財産を失った、その直後に、だ。

「案件詐欺でほぼ全財産を失いました」

このたった一行を発信するのはかなり勇気の要ることだろう。

恥をしのんで手口を明かしてくれたおかげで、僕らはこうして仕組みを知ることができる。

「信用スコア」という言葉が仕込まれた罠

ここまでは、まだ「よくある案件」という感じだ。

地獄が口を開けるのは、前払いの報酬がプラットフォーム上に表示された、その直後からだ。

犯人たちは、まーちゃろがミスをするのを待っていたわけではない。

ミスのほうを「でっち上げて」、そこから一気に畳みかけてくる。

しかもその武器が、よりによって「信用スコア」という、いかにもそれらしい言葉だった。

順番に見ていきたい。

 

口座番号の入力ミスという最初の落とし穴

最初の一撃は、7月1日の午後にやってきた。

犯人を名乗る側から「登録した口座番号に誤りがあった」と連絡が入る。

そして、カスタマーサポートを名乗る相手がこう言う。

「本人確認のため、振り込まれた報酬と同じ額を一度こちらへ送ってほしい」

「そうすれば30分以内に、凍結を解除して全額返金する」と。

 

ここで見逃せないのは、まーちゃろが「自分がミスをした」と思い込まされている点だ。

人は、自分に落ち度があると感じた瞬間、驚くほど従順になる。

テストで答案に名前を書き忘れた子が、先生に呼ばれて小さくなってしまう——あの感じに近い。

しかも「どうせ返ってくるお金」だと言われている。

彼女は、1回目の送金をしてしまう。

 

スコアを回復させれば戻る、という甘い罠

ところが、お金は戻ってこない。

翌7月2日、今度は「信用スコアが95点に届いていないので出金できない」という理屈が出てくる。

担当も「信用担当」なる人物へ引き継がれる。

 

このあたりで、犯人たちの本当の狙いが見えてくる。

「信用スコア」という言葉のいやらしさは、それが「回復できる」ように聞こえるところにある。

凍結された、出金できない——でも、あと少しスコアを上げれば元に戻る。

その一点だけで、被害者を沼につなぎとめておく。

 

つまり相手が売っているのは絶望ではなく、「あと一歩で取り返せる」という希望のほうなのだ。

これは、負けを取り返そうとしてやめられなくなるギャンブルと、まったく同じ構造である。

人は、失うのが怖いから逃げるのではない。

「ここでやめたら、今まで払ったぶんが全部むだになる」という思いから、逃げられなくなる。

 

スコアを回復させるための、2回目の送金。

次は「スコアが100に届かないと全額は引き出せない」という理屈で、3回目の送金。

気づいたときには、口座の残高はほぼ空になっていた

 

入れ替わる担当者と深夜の沈黙

この詐欺のいやらしさは、金額のエスカレートだけではない。

最初に接触してきた広報のAから、カスタマーサポート、そして「信用担当のS」なる人物へと、担当者が次々に入れ替わっていくのだ。

 

一人の人間にだまされているなら、どこかで「この人、なんかおかしい」と気づけるかもしれない。

だが、役割の違う人間が入れ替わり立ち替わり出てくると、そこに「ちゃんとした組織」の幻が立ち上がる。

部署をたらい回しにされると、腹は立つのに「組織として機能している」とだけは感じてしまう、あの心理を悪用した形だ。

 

しかも彼らは、24時間対応をうたいながら、肝心なときには深夜だからと沈黙する。

かと思えば「私を失職させる気ですか」「夫が重い病気で、私が家計を支えているんです」と、個人的な事情まで持ち出して同情を誘う。

情に厚い人ほど、ここで手を差し伸べたくなってしまう。

まったく、どこまで人の善意を燃料にすれば気が済むのか。

この一点だけは、はっきり言っておきたい。

悪いのは、100パーセント、こういう仕掛けを作った連中のほうである。

 

この段階的な追い込みを、まーちゃろ本人が動画のなかで生々しく振り返っている。

「怪しいよね」

「今考えたらめっちゃ怪しいの分かってる」

「けど焦ってたの」

この言葉に、すべてが詰まっている。

おかしいと薄々わかっていても、焦りが冷静な判断を根こそぎ奪っていく。

母親の一本の電話が止めた最悪の一歩

ここまで読んで、「いやいや、自分ならそんなの引っかからないよ」と思った人もいるかもしれない。

だが、その「自分だけは大丈夫」という気持ちこそ、この手の詐欺がいちばん狙っているスイートスポット(隙)なのだ。

 

まーちゃろ自身、もともとは「親が詐欺に遭わないか」を心配していた側だったという。

用心深く、人の心配までしていた人が、当事者になった瞬間に足元をすくわれた。

おかしな話に聞こえるかもしれないが、冷静な人ほど、焦らされると一気に判断が壊れる。

ふだんブレーキがよく効く車ほど、それが壊れたときの止まらなさに気が動転する、というのに似ている。

 

彼女が最後の一線を越えずに済んだのは、母親のおかげだった。

沼の外から差し込む、たった一本の電話。

支払える額を超えかけたとき、まーちゃろは母親にLINEでこう送っている。

「お金がなくなってるけど、返金されるから気にしないで」

相談というより、心配をかけまいとする報告に近い。

 

だが母親は、その一文だけで見抜いた。

すぐに電話をかけてきて、「それ絶対詐欺だから、今すぐ銀行に行きなさい」と。

銀行の窓口でも「間違いなく詐欺です」と言われ、そのまま警察へ被害届を出すことになった。

 

皮肉な話だが、外にいる人間には一瞬でわかるのだ

沼にはまっている本人には見えないものが、外にいる人には水面の上からまる見えになっている。

この差は、いったいどこから来るのだろうか。

答えはたぶん『焦り』にある。

 

ネットにも、まーちゃろに寄り添う声が多く上がっていた。

そう、焦りだ。

犯人たちは商品の到着を急がせ、スケジュールをちらつかせ、とにかく被害者に考える時間を与えない。

冷静に検索する数分さえ奪ってしまえば、この手の詐欺はほぼ成立する。

 

ネットで調べてみると、SNSをきっかけにした副業のトラブルは、この数年で倍以上に増えているらしい。

国民生活センターによれば、一件あたりの平均額は100万円前後だという。

まーちゃろの被害額と、見事に重なってしまう。

つまりこれは、特別に運の悪い一人の話ではなく、いま日本のあちこちで静かに起きている波の、その一つなのだ。

 

最後に、ひとつだけ。

お金がからむ話で、ほんの少しでも心がざわついたら、一人で決めないこと。

親でも、友人でも、なんなら僕みたいな通りすがりのブログでもいい。

声に出して誰かに話してみる。

たったそれだけで、沼の外からの視線が手に入る。

まーちゃろが踏みとどまれたのも、彼女が弱かったからでも、賢かったからでもない。

ただ、抱え込まずに一言こぼした。

それだけのことだった。

 

そのまーちゃろは、ほぼ全財産を失ったあとに、こう言い放っている。

「段々ムカついてきたので、被害額の倍を稼いでやる」と。

いい啖呵だ。さすがYouTuber。

奪われたお金がすぐ戻るわけでも、犯人がすぐ捕まるわけでもない。

それでもこの人は、もう前を向いている。

彼女の勇気ある告白が次の誰かの財布を守り、あの啖呵が本物になる日を、僕は普通に楽しみにしている。