いま、日本中の農家が、丹精込めて育てた果物を盗まれ続けている。

福岡では梨が5000個、青森ではりんごが一晩で数百個。

しかも狙われるのは、いちばん高く売れる収穫直前の優良果ばかりだ。

そしてこの果物の大量窃盗の影に、外国人グループの存在があるのではないか──ネットではそんな見方が、日ごとに強まっている。

 

正直、この手の話は「またか」で流されがちだ。

だが今回ちょっと調べてみると、簡単に「外国人が犯人だ」とも「それは決めつけだ」とも言い切れない、なんとも据わりの悪い現実が見えてきた。

捕まった犯人もいれば、10年捕まらない犯人もいる。

日本人の内部犯もいれば、ベトナム語で盗品らしきものを売る誰かもいる。

今回は、この果物窃盗の実態と「外国人グループ犯行説」がどこまで本当なのかを、確認できた事実とネットの噂を分けながら、わかりやすく追いかけていこうと思う。

目次

日本中で果物が盗まれ続けているという現実

果物泥棒と聞くと、つい「畑からいくつか失敬する」くらいの、どこかのどかな絵を思い浮かべてしまう。

だが、いま各地で起きているのは、そんな牧歌的な話ではない。

組織的で、手慣れていて、そして驚くほど捕まらない。

まずは、この国でどれだけの果物が消えているのか、その足元の実態から見ていきたい。

梨5000個にりんご330個…全国で相次ぐ収穫直前の大量盗難

まず、いま何が起きているのかを整理しておきたい。

この夏、福岡県うきは市の梨農家が、収穫直前の梨をおよそ5000個も盗まれた。

被害額はざっと200万円。

トラックでも横付けしなければ運べない量である。

しかもこの農家、前の年にも大量に盗まれていて、今回が2度目。

ついに閉園を決断したという、なんとも胸の痛むニュースだった。

 

そして青森では、りんごが標的になっている。

去年の秋、弘前市ではふじが330個、五所川原市でも野積みのふじが300個ほど、根こそぎ持っていかれた。

青森市では、特定の品種のレッドゴールドが150個ほど消えた。

梨とりんご、場所も品種も違う。

だが「収穫直前の優良果が、大量に、一晩で消える」という共通点が、どうにも引っかかる。

 

農作物の盗難は毎年2000件超で半数以上が未解決

ここで、多くの人が知らないであろう数字を出したい。

農作物の盗難は、全国で毎年2000件以上も起きている

2023年は2154件。

桃、ぶどう、キャベツ、白菜、りんご、さくらんぼ──ありとあらゆる作物が狙われている。

埼玉、愛知、静岡あたりで被害が目立つ。

そして、もっと驚くのはここから。

この2000件超のうち、検挙されるのはおよそ半分だけなのだ。

つまり半分以上が、犯人が分からないまま迷宮入りしている

しかもこれは警察に届け出があった件数だけの話で、「どうせ捕まらない」と泣き寝入りした農家を入れれば、実際の被害はもっと多いはずだ。

 

毎年2000件、半分は未解決。

この「捕まらなさ」こそが、今回の話のいちばんの背骨になる。

優良果だけを選んで一晩で消えていく手口の不自然さ

ここで手口に注目してみたい。

被害に遭った農家の証言を読むと、共通して出てくる言葉がある。

「いいものだけを選んで持っていかれた」だ。

 

道路沿いの、手が届く範囲の、大きくてよく色づいた優良果だけが、狙い澄ましたように消えている。

青森のある農家は「10年くらい前から、毎年のように来る」と話していた。

つまり、たまたま通りかかった空腹の誰かが出来心で、という話ではない。

りんごや梨の目利きができて、どこにいい木があるかを知っていて、それを毎年繰り返せる何者かがいる、ということだ。

 

素人の思いつきでは、こうはならない

ここに「知識のあるグループの犯行では」という疑いが生まれる余地がある。

孫のために残したレッドゴールドまで持ち去られた農家の無念

数字や手口の話をしてきたが、忘れたくないのは、盗まれた一つひとつに人の思いが乗っているということだ。

青森市で消えたレッドゴールド150個。

あの品種を育てていた農家は、孫が食べるのを楽しみに待っていた分まで盗られてしまった。

金額にすれば1万円ちょっとかもしれない。

だが、そういう問題ではない

 

一年かけて世話をして、あと数日で収穫というところまで来て、一晩でごっそり持っていかれる。

「またか」ではなく「怒りしかない」と、被害農家は絞り出すように語っていた。

この悔しさは、数字の何倍も重い。

メルカリに現れたベトナム語説明文つきの青森県産りんご

さて、話が一気にきな臭くなるのはここからだ。

ネットで、あるフリマアプリの出品がちょっとした騒ぎになった。

「青森県産 摘果りんごMIX 箱込み5kg」という商品なのだが、その説明文に、なぜかベトナム語が混ざっていたのである。

日本語で「ジャム作りなどの加工用で、生食には向きません」と丁寧に説明する一方、末尾には「24時間以内にATMでお支払いを」といった内容のベトナム語がしっかり添えられていた。

単なる翻訳ミスというより、ベトナム語が読める誰かに向けた、実務的な注意書きに見える。

青森のりんごに、ベトナム語の支払い案内。

この組み合わせに、ネットがざわついたのも無理はない。

 

5kg1900円という説明つかない安さ

しかも、その値段がまた引っかかる。

5キロで1900円、送料込み。

りんごの相場を知っている人ほど「安すぎる」と感じる価格だ。

ネットでも「経費ゼロじゃないと、この値段では出せない」という声が上がっていた。

摘果りんご、つまり間引きされた小玉だから安いのだ、という説明はつく。

つくのだが、それにしても安い。

 

そして、この出品はあっという間に「売り切れ」になった。

安ければ売れるのは当たり前だが、この「激安・外国語・即完売」というセットが、農家のりんご盗難のニュースと重なった瞬間、人々の頭に一本の線が引かれた。

「まさか、盗まれたりんごが、ここで売られているんじゃないか」と思う人がいても何ら不思議ではない。

外国人グループ犯行説はどこまで本当なのか

ここからが本題だ。

ネットでささやかれる「外国人グループ犯行説」は、はたしてどこまで根拠のある話なのか。

感情論はいったん脇に置いて、確認できた事実だけを順番に積み上げてみると、そこには単純な善悪では割り切れない、なんとも厄介な現実が見えてくる。

梨182個を盗んで捕まったベトナム人の元技能実習生

ここまでは状況証拠だ。

では、実際に「外国人が果物を盗んで捕まった」事例は本当にあるのか。

 

ある。

2021年、埼玉と群馬で、梨182個を盗んだとしてベトナム国籍の男が逮捕されている。

この男は、技能実習の職場から失踪した元実習生だった。

「誘われて行った」と供述したという。

当時、北関東では梨やぶどう、いちごの盗難が相次いでいて、ベトナム人グループの関与が疑われていた。

これは噂ではなく、逮捕という結果が出た事実である。

「外国人グループが果物を盗む」という筋書きが、まったくの絵空事ではないことは、まずここで押さえておきたい。

 

失踪した実習生が流れ込む「ボドイ」と呼ばれる集団の正体

なぜ、失踪した元実習生が犯罪に流れるのか。

背景には「ボドイ」と呼ばれる人たちの存在がある。

もともとベトナム語で兵士を意味する言葉らしいが、日本では、実習先から失踪して不法滞在状態になったベトナム人の一部を指すようになった。

 

低賃金の職場から逃げ出したものの、まともに働けず、生活に困る。

そこで手っ取り早く金になる犯罪に手を染めていく──果物や家畜の窃盗から始まって、銅線やケーブルの盗みへとエスカレートしていく事例が、各地で報じられている。

全員がそうだと言うつもりはない。

だが、そういう構造が現に存在してしまっているのは確かだ。

仲間集めから転売まで人目に触れずに完結する組織的な手口

この手口の厄介さは、「表に出にくい」ように、うまくできているところにある。

仲間集めはネット上のコミュニティで。

指示役は別にいて、実行役だけが動く。

盗んだものは、同じ国の人たち向けに、身内のネットワークやフリマアプリで換金する。

日本語の世界からは見えないところで、集める・盗む・売るが完結してしまう

 

さらに、実行役は移動性が高く、匿名で、身元も定かでない。

だから捕まえにくい。

銅線窃盗などでも「SNSで集められた実行役、指示役は別」という構図が確認されている。

果物窃盗が同じやり方で回っているとすれば、あの「毎年来るのに捕まらない」という不気味さにも、一応の説明がついてしまう

 

出どころ不明の米転売騒動と同じ構図に見えるという声

実は、似たような騒ぎは前にもあった。

少し前、フリマアプリで米が転売され、価格が跳ね上がったことがネットで問題になった。

このときも「日本語が不自然な出品が目立つ」「出どころの分からない米が大量に流れている」と指摘され、外国人による転売ではないかと騒がれた。

 

今回のベトナム語りんごを見た人たちが「またこれか」と反応したのは、この米騒動の記憶があるからだ。

安く手に入れた(あるいは不当に手に入れた)農産物を、外国語の説明をつけて即金化する──そのパターンが、一度見た景色として、多くの人の中にすでに焼き付いている

600トン2.3億円の史上最大の盗難はまさかの日本人

……と、ここまで「外国人グループ説」を積み上げてきた。

ところが、話はそう単純ではない。

 

青森のりんご窃盗で、過去最大級の事件がある。

つがる弘前農協の施設から、なんと約600トン、被害額2.3億円分のりんごが、3年半にわたって盗まれ続けていた事件だ。

280回である。

 

では犯人は外国人グループだったのか。

違う。

捕まったのは、農協の元従業員をはじめとする日本人たちだった。

出荷作業を装って持ち出し、卸売業者へ横流ししていた。

今年4月には、1億円を超える賠償命令まで出ている。

つまり史上最大の盗難は、外国人でも謎のグループでもなく、内部を知り尽くした日本人の犯行だったのだ。

大規模は解決して小規模は未解決のまま

ここに、この問題のいちばん面白い(そして厄介な)ねじれがある。

600トンの大規模事件は、内部の日本人の仕業としてきっちり解決した。

一方で、農家の畑を狙う小規模な盗難のほうは、毎年繰り返されているのにほとんど捕まっていない。

 

大規模は「内部の人間しか知らないルート」で足がついた。

だが、外から畑を狙う小規模犯は、内部にいない分だけ足がつきにくい。

この「外から繰り返し狙い、匿名で売り抜ける」という像は、たしかに前に見た外国人グループの手口とよく似ている。

 

日本人の内部犯と、正体不明の外部犯。

同じ「りんご泥棒」でも、犯人像はきれいに二つに分かれている。

そして厄介なことに、疑いが集まっているのは、まさに捕まっていない後者のほうなのだ。

 

被害農園が掲げていた「外国人労働者の積極受け入れ」

ここで、この事件をめぐって、ネットで妙に引っかかる指摘が話題になっていた。

少し意地の悪い、しかし無視しづらい指摘である。

梨を大量に盗まれ、窮状を訴えていた、あの農業法人。

この会社はなんと、公的なサイト上で「外国人労働者を積極的に受け入れる」と、はっきり掲げていたというのである。

 

断っておくが、これ自体はまったく責められる話ではない。

人手不足にあえぐ農業を、外国人の力を借りて支えていく。

むしろ時代に合った前向きな経営判断だろう。

 

ところが、この事実が盗難のニュースと並んだ途端、ネットには「外国人を受け入れていた側が、その外国人に盗まれたのではないか」という、なんとも皮肉な見立てが一気に広がった。

中には「受け入れを掲げるような人間が被害に遭うのは当然だ」といった、かなり冷たい声まであったほどだ。

だが、そこに僕は乗れない。

良かれと思って門を開いた人を「自業自得」と笑うのは、さすがに筋が違うと思うからだ。

土地勘の謎に説明がつくという皮肉

ただし、意地の悪さを取り除いても、この見立てには一つ、無視できない筋の良さが残る。

それが、記事の前半でずっと引っかかっていた「土地勘」の謎だ。

 

思い出してほしい。

この手の盗難の不気味さは、優良果の見分けができて、どこにいい木があるかを知り尽くしている点にあった。

素人には真似のできない、農作業の知識と土地勘。

 

では、その知識と土地勘を、いちばん自然に持てるのは誰なのか。

ほかでもない、その農園で実際に働いていた人、あるいはその周りにいた人たちである。

 

もし──あくまで、もし、だ。

犯人が、かつて受け入れた労働者や、そこから枝分かれしたネットワークにつながる誰かだったとしたら。

畑の場所も、いい木の位置も、収穫の頃合いも、知っていて当たり前になる。

「毎年、狙い澄ましたように優良果だけが消える」というあの謎に、するりと説明がついてしまうのだ。

 

もちろん、これは証拠のある話ではない。

受け入れた労働者が犯人だと決まったわけでは、まったくない。

むしろ、真面目に働いて去っていった人のほうが、ずっと多いはずだ。

 

だが、もしこの仮説が当たっていたら、どうだろう。

人手が足りず、善意で外国人に門戸を開いた結果、その門から入った誰かに、いちばん大切なものを持っていかれたという、あまりに救いのない構図が浮かび上がってくる。

 

ただ、勘違いしてほしくないのは、これは一人の農家を責める話ではない、ということだ。

安く人手を確保したい現場と、低賃金から逃げ出さざるを得ない労働者。

その歪んだ制度の隙間で、善意の人ほど傷ついてしまう

本当に怖いのは、そういう構造のほうなのである。

差別と警戒の線引き、そして本当の悪の居場所

ここまで事実を並べてきて、そろそろいちばん難しい話をしなければならない。

「外国人が怪しい」と感じてしまうことは、差別なのだろうか。

そして、もし犯人が本当に外国人グループだったとして、いちばん憎むべき悪は、どこにいるのか。

きれいごとを抜きにして、ここを正面から考えてみたい。

 

疑いの目で見たくなる気持ちは無理もないという話

さて、ここまで読んで「やっぱり外国人グループが怪しいじゃないか」と思った人は多いと思う。

その感覚を、頭ごなしに否定する気はない。

捕まったベトナム人の元実習生がいて、ボドイと呼ばれる集団の実態があって、ベトナム語つきの激安りんごがフリマに並ぶ。

これだけ材料が揃えば、疑いの目を向けたくなるのは、むしろ自然な反応だろう。

 

「火のないところに煙は立たない」と見るか。

「煙だけが独り歩きしている」と見るか。

 

正直、いまの時点では、白と言い切る材料も、黒と言い切る材料も、外側に転がっているだけで、決め手はない

大事なのは、この「怪しい」という感覚そのものは、恥じるようなものではない、ということだ。

 

口に出した瞬間「差別だ」と言われてしまう息苦しさ

ところが、この「怪しい」の一言を口に出した途端、差別だ、ヘイトだ、と叩かれる空気が、いまの日本にはある。

ここに、多くの人が感じているモヤモヤの正体がある。

統計や実際の事件をもとに「このルートから来た人に犯罪が集中しているのでは」と考えるのは、本来リスクの評価であって、差別とは違う。

差別というのは、国籍だけを理由に一人ひとりを見下し、機会を奪うことだ。

傾向を指摘することと、個人を貶めることは、分けて考えなければいけない

 

なのに、その区別をせずに「外国人の話をした=差別」と一括りにされると、真っ当な警戒心まで封じられてしまう。

この息苦しさが、かえって人々の不満を溜め、話をこじらせている気がしてならない。

一番割を食っているのは真面目に働く外国人労働者

ただ、ここで一つ、忘れてはいけないことがある。

こういう事件が起きるたびに、いちばん割を食っているのは、実は真面目に働いている外国人労働者たちだ、という皮肉である。

 

青森のりんご産業も、いまや外国人の働き手なしには回らない。

ネパールの人たちが選果作業で活躍している農園もある。

彼らの大多数は、法を守り、日本の農業を黙々と支えてくれている。

なのに、一部の犯罪者のせいで「ベトナム人=泥棒」のように見られてしまえば、隣で汗を流している善良な人まで、白い目にさらされる。

これほど理不尽な話もない。

憎むべきは盗んだ本人であって、同じ国籍の人全員ではないはずだ。

 

失踪者を生み続ける技能実習制度という構造の穴

では、本当の悪はどこにいるのか。

犯人本人はもちろんだが、その手前に、もう一つ見ておくべきものがある。

 

失踪した元実習生を、次から次へと生み出してしまう技能実習制度、その構造の穴だ。

 

安い労働力として呼び込んだはいいが、低賃金や厳しい環境から逃げ出す人が、毎年数千人規模で出ている。

逃げた先で行き場を失った人の一部が、犯罪グループに取り込まれていく。

人手不足の農家が外国人を受け入れ、その受け入れの歪みが、皮肉にも「農作業の知識を持った外部の犯罪者」を生む土壌になっている。

個人を叩くだけでは、この蛇口は閉まらない

盗品の換金装置になりかけているフリマアプリの無防備さ

もう一つ、見過ごせない悪の居場所がある。

盗まれたものが、あまりに簡単に金に換わってしまう仕組みだ。

 

フリマアプリは、匿名で、その場で、誰にでも売れる。

便利さの裏側で、出どころの怪しい品物の「換金装置」になりかけている

ベトナム語の激安りんごにせよ、出どころ不明の米にせよ、疑わしい出品がスッと通ってしまう。

 

盗む側からすれば、これほど都合のいい売り場はない。

「盗んでもすぐ現金に換えられる」限り、盗みの旨みは消えない

犯人を追いかけると同時に、この「売れてしまう場所」にどう網をかけるか。

そこに手をつけないと、いたちごっこは終わらないだろう。

 

盗んだ人間に罰が下ってほしいという願い

長くなったので、最後に僕の思いを一つだけ書いておきたい。

この件の犯人が外国人グループなのか、日本人なのか、いまの段階で決めつけることはできない。

だが、はっきりしていることもある。

誰であろうと、他人が一年かけて育てたものを一晩で奪う人間がいて、そのせいで畑を畳んだ農家がいる、という事実だ。

 

孫のためのりんごを盗られた人がいる。

二度目の被害で、ついに梨づくりをやめた人がいる。

国籍がどうこうの前に、まずこの盗人たちが、きちんと捕まって、それ相応の報いを受けてほしい

真面目に土と向き合う人が馬鹿を見て、こそこそ盗む者が得をする。

そんな理不尽が、いつまでも続いていいはずがない。

盗んだ人間に、きちんと罰が下る日が来ることを切に願っている。

梨
盗まれた梨はどこで売られる?犯人像と盗品の流通ルートの闇について福岡県うきは市で、収穫を目前にした梨がおよそ5000個、まるごと盗まれた。 被害額にしておよそ200万円。 しかもこの農園、去年も大...