岡山県で、ぶどう畑からシャインマスカット約200房を盗んだとして、倉敷市の無職の男(42)が逮捕された。

被害にあったのは、久米南町でぶどう園を営む75歳の男性。

ビニールハウスの中から、時価にして40万円相当が消えていた。

 

ところが、警察が男の自宅を調べたら、出てきたぶどうは約300房だった。

盗んだと認めている数より、100房も多い

男は「ぶどうを売って生活費にあてていた」と話しているという。

 

生活費、と来たか…。

他人が1年かけて育てたものを持ち出しておいてそんなことをのたまう。

しかも盗まれているのは岡山だけではなく、栃木でも山梨でも同じことが起きていて、そちらはまだ誰も捕まっていない。

ただ、調べていくうちに、犯人の言い分よりも気になるものが出てきた。

この手の盗みに下る罰が、思っていたよりずっと軽いのである

今回は、捕まった男の家から何が出てきたのか、なぜシャインマスカットばかりが狙われるのか、そして盗んだ人間にどんな罰が下るのかまでを、順番に見ていこうと思う。

逮捕された男の自宅にあった300房

まず、盗まれたのは、7月17日の夕方から18日の朝にかけて。

久米南町のビニールハウスに何者かが入り込み、シャインマスカット約200房が持ち去られた。

時価にしておよそ40万円である。

 

それから3週間ほど経った8月8日、岡山県警は倉敷市に住む42歳の無職の男を窃盗の疑いで逮捕した。

男は容疑を認めていて、「ぶどうを売って生活費にあてていた」と話しているという。

 

ここまでなら、よくある農作物の盗難事件として流れていったのだろう。

僕が引っかかったのは、そのあとに出てきた数字のほうである。

男の自宅を捜索したところ、シャインマスカットなどのぶどうが約300房も見つかったという。

盗んだと認めている200房より、100房多い。

 

つまりこの300房は、1回の犯行では説明がつかない量ということになる。

警察も、逮捕した容疑以外にもぶどうを盗んでいたのではないかとみて調べを進めている。

個人で食べきれる量ではないので、行き先は当然、売る場所しかない。

男がネットを使って売っていた可能性も、あわせて調べられているそうだ。

 

盗まれた果物がどう金に変わっていくのかは、先月、梨5000個が消えたうきは市の事件のときに詳しく追いかけた。

あそこの農園主は、被害のあと梨づくりそのものを辞めると口にしている。

盗まれたのが、その年だけの話ではなかったからだ。

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ネットでも、この「生活費」という言い分に反応した人は多かった。

八百屋を15年やっている人の言葉である。

ちなみに、岡山の農園の被害は40万円分だけでは終わらないかもしれない。

自宅にあった300房がどこの畑から来たものなのかは、まだ分かっていないのだ。

シャインマスカットが狙われる理由

畑で育っているものなら他にいくらでもあるのに、この夏の被害はぶどうにばかり集まっている。

理由は、栃木の被害額を割り算してみるとすぐに分かる。

約400房で約80万円だから、1房あたりおよそ2000円

山梨で盗まれたものが1房1000円ほどだったというから、だいたいその前後が相場ということになる。

 

スーパーのレジで2000円といえばそれなりに覚悟のいる金額だが、それが屋根と壁だけのハウスの中に、鍵もかからないまま何百とぶら下がっているわけである。

鍵のかかっていない貴金属店。

ビニールハウスというのはそもそも、風と寒さを防ぐための建物である。

人を締め出すようには、できていない。

 

しかも今年は、その値段がさらに上がっている。

東京の市場での取引価格は去年の同じ時期より3割以上も高いそうで、お盆に向けて仏壇の供え物や帰省の手土産の需要が重なるこの時期は、売る側にとっての書き入れ時にあたる。

言い換えれば、盗む側にとっても、いちばん高く現金に変わる瞬間だということだ。

 

そこへ、この品種特有の事情が乗ってくる。

皮ごと食べられて種もないので、買った人が下ごしらえで手間取ることがない。

『緑の宝石』などと呼ばれる名前のほうも、たいていの人が知っている。

つまり、どこで採れたものかを深く聞かれないまま、するりと人の口に入っていく果物なのだ。

盗んだ側からすれば、これほど説明のいらない商品もない。

 

そして狙われるのは、決まって収穫の直前である。

栃木で消えた400房は8月下旬に収穫する予定のもので、山梨の農家は「ここまで来るのに丸1年」と話していた。

1年かけて育てて、値段がいちばん上がりきったところだけを抜き取られる。

貯めるだけ貯めた財布を、使う直前に抜かれるようなものである。

栃木と山梨ではまだ捕まっていない

ここまで岡山の話をしてきたが、忘れてはいけないことがある。

捕まったのは、この夏に起きた盗難のうちの1件だけだ。

 

栃木県佐野市の果樹園では、ビニールハウス5棟のうち3棟が被害にあった。

盗まれたのは約400房で、被害額は約80万円。

7月25日の夕方にハウスを確認したあと、8月5日になって気づき、警察へ通報している。

 

気づくまでに10日以上かかったのには、理由があった。

盗まれたのは、通路から見えない死角と、ハウスの裏側ばかりだったのだ。

手前の目立つ場所には手をつけず、見えないところから抜いていく。

「発見が遅くなってしまった」という代表の言葉が、そのまま手口を物語っている。

つまりこの果樹園には、あとから犯人をたどる手がかりが、ほとんど残っていなかったことになる。

 

山梨でも、同じようなことが起きている。

甲府市の畑で、8月1日の早朝に約50房が消えているのが見つかった。

10日前に見たときは、何ともなかったそうだ。

枝には、房ごと切り取られた跡だけが残っていた。

JA(農協)によると、山梨県内では今年に入って初めてのぶどうの盗難だったという。

 

栃木も山梨も、犯人はまだ分かっていない。

農作物の盗難が毎年どれくらい起きていて、そのうちどれだけが犯人不明のまま終わるのか。

青森でりんごが大量に消えた事件を追ったときにその数字を調べたのだが、正直、なかなかひどかった。

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犯人は外国人ではないのか?

この手のニュースが出ると、決まって出てくる声がある。

どうせ外国人の仕業だろう、というものだ。

 

実際、岡山で捕まった男について報じられているのは「倉敷市の無職の男(42)」というところまでで、名前も国籍も出てきていない

ネットでは、そこに引っかかっている人がかなりいた。

被害に遭った農家のほうは名前も顔も出して取材に答えているのに、盗んだ側は「男(42)」だけである。

農作物の大量窃盗で外国人のグループが摘発された例も、過去に実際にある。

そう疑いたくなるのも、無理はない。

 

ただ、いまの段階で表に出ているのは、そこまでである。

報道各社が揃って「男(42)」で止めているということは、警察が氏名を発表していないか、各社が書かない判断をしたかのどちらかということになる。

外国籍なら外国籍と報じられることのほうが多いので、そこから外国人だと決まるわけではない。

かといって、日本人だと確認できたわけでもない

 

そして、栃木と山梨にいたっては犯人そのものが分かっていない。

この夏の被害の大半は、日本人か外国人か以前に、誰がやったのかすら見えていないのだ。

 

そこがはっきりするとしたら、盗まれたぶどうがどこへ流れたのかを追った先だと思う。

岡山の男の自宅にあった300房の出どころが割れれば、そこから見えてくるものもあるはずだ。

窃盗犯の罪が軽すぎないか?

では、捕まった男にはどんな罰が下るのか。

畑から作物を持ち出す行為は、法律のうえでは普通の窃盗にあたる。

刑は10年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金

拘禁刑というのは、これまでの懲役と禁錮をひとまとめにした新しい呼び方だと思ってもらえばいい。

数字だけ見れば、けっこう重い。

 

ところが、実際に言い渡された判決を読むと、印象がずいぶん変わる。

2020年に長野の簡易裁判所が扱ったのは、夜のうちにシャインマスカット31房を切り取った事件で、被害額はおよそ4万2000円。

判決は懲役1年6か月だったが、執行猶予が3年ついたので、この人物は刑務所に入っていない

夜中に他人の畑へ入って31房を切り取って、それで済んでしまうのかと思った。

 

一方、2023年の甲府地方裁判所は違った。

複数人が夜に車で畑を回り、桃や梨を約3800個、時価にして約148万円分を持ち去った事件で、前科がないにもかかわらず懲役2年8か月の実刑が言い渡されている。

 

2つの判決を分けたのは、犯行が組織的で計画的だったかどうか、そして何より、被害を弁償できたかどうかだった。

盗まれた果物は食べられるか売られるかしていて、現物が戻ってくることはまずない。

だから最後は、金で払えるかどうかが実刑と執行猶予を分ける。

盗られた側からすれば、たまったものではないだろう。

 

今回の男は無職で、盗んだぶどうを売った金を生活費にしていたと話している。

弁償する金があるなら、そもそも盗んでいない

それでも手を出す人間が後を絶たないのは、捕まらないまま終わる事件のほうがはるかに多いからだ。

現に、栃木も山梨も犯人はいまだ分かっていない。

捕まりにくいうえに、捕まっても軽い

作った側からすれば、この釣り合いはさすがにおかしくないだろうか。

農家が本当に奪われてしまうもの

最後に、この一連の話で僕がどうにも納得できずにいる点を書いておきたい。

栃木の果樹園に防犯カメラがなかったのは、農家が用心を怠っていたからではなく、ハウスが5棟もあれば通路から見えない場所はいくらでもできてしまうからである。

その全部にカメラを回すとなればかなりの出費になるし、柵で囲むにしても夜通し見回るにしても、結局は同じことだ。

 

守るための金と時間を、育てている本人が出すしかない

 

実際、収穫を控えた農家が車の中で寝泊まりしながら畑を見回っているという話も報じられていた。

収穫まであと数日というところで、畑に泊まり込むしかなくなる

ここまで言いたくなるのは、盗られたのが1軒や2軒ではないからだろう。

岡山の男の自宅からは、300房が見つかった。

75歳の農家が1年かけて育てたぶどうのほうは、一晩で消えている

盗まれたものは、もう戻ってこない。

せめてその1年分の重さが、これから下される罰にちゃんと乗ってくれたらと思う。