埼玉県警や神奈川県警など20を超える府県警で、警察官や職員の個人情報が外へ漏れた可能性が出てきたらしい。

埼玉県警では全職員の約1万3000人分、神奈川県警では約1万6000人分にのぼるという。

出どころは警察ではなく、警察から職員の名簿を預かっていた大阪府箕面市のIT企業「アルカディア」だ。

自治体の防災メールなどを手がける会社が、2026年10月11日に不正アクセス(外から勝手にシステムへ入り込まれること)を受けていたのである。

このニュースを見るといろいろな心配事が浮かんでくる。

犯人を捕まえる側の人間の名簿が、もし捕まえられる側に渡ったらどうなるのか。

今回はそのリスクについて話をしていこう。

災害用の名簿が丸ごと抜かれた

アルカディアは、災害時に住民へ一斉にメールを送る仕組みを全国の自治体へ貸し出している会社だ。

そして同じような仕組みを、いくつもの県警が「職員の安否確認」に使っていた。

大きな地震が来たとき、警察官や職員に一斉にメールを送り、「無事か」「すぐ署に来られるか」を確かめるためのものである。

 

県警ごとの人数は、こうなっている。

  • 神奈川県警 約1万6000人
  • 愛知県警 約1万5000人
  • 埼玉県警 約1万3000人
  • 兵庫県警 約1万3000人
  • 福岡県警 約1万1000人
  • 広島県警 約5700人
  • 岡山県警 約4000人
  • 栃木県警 約3900人
  • 群馬県警 約3700人
  • 鹿児島県警 約2200人
  • 福井県警 約2000人
  • 徳島県警 約1900人

この12の県警だけで、9万人を超える。

しかもこの数字は、そのあとも膨らみ続けた。

石川県警でも全員にあたる約2000人分の名前や所属、電話番号まで漏れたおそれがあると分かり、2026年10月21日には、警察庁への取材として、京都府警なども含めた20府県警・約12万5000人分にのぼると報じられている。

報道では、登録していた全員の分が抜かれたおそれがある、とのこと。

同じ会社の防災メールに登録していた住民の分も合わせると、漏れたおそれのあるメールアドレスは約313万件(13日時点)にのぼるそうだ。

さらに、防犯メールにも同じ会社の仕組みを使っていた4つの府県警では、職員の名簿とは別に、防犯メールに登録していた一般の住民の情報まで含まれていて、影響は合わせて22の府県警に広がっている。

漏れたのは名前と所属と私用メール

では、この名簿から具体的に何が漏れたのか?

埼玉県警の場合は、氏名と所属、それに私用のメールアドレスだ。

栃木県警では項目がもっと多く、職名と携帯電話の番号まで含まれていて、電話もメールも私用のものが混じっていたという。

一方、兵庫県警で漏れたのは、メールアドレスと氏名の一部、それに所属を示すコードだったと報じられた。

 

今のところ、住所や家族の情報が含まれていたとは報じられていない。

埼玉県警も、このシステムには警察の職員以外の情報は登録していなかったと説明している。

ただ、じゃあこれで安心かというと、そういうわけでもない。

今回、特に引っかかったのは「私用」というところだ。

仕事用のアドレスなら、職場が管理していて、何かあれば止めることもできる。

でも私用のアドレスや携帯番号となると、本人が家でも外でも使っている連絡先なわけで、話が違ってくる。

災害の夜でも確実に届くように、あえて私用の連絡先を登録させていたのだろう。

それが今回は、そのまま裏目に出てしまった。

警察官の家族までたどられる?

私用のメールアドレスや電話番号は、家族旅行の写真を載せたSNSや、子どもの学校の連絡アプリにまでつながっていることがある。

しかも、そこに名前と勤め先まで添えてあれば、たどる側は相手を取り違えようがない。

名簿には書かれていなかった家族の顔まで、たどられてしまうかもしれないのだ。

名簿に家族の名前がなくても、家族まで狙われるおそれは消えない。

特に警察官の場合は、家や家族を知られることの重さが、ふつうの会社員とは比べものにならない。

仕事で相手にしているのが、ほかでもない、捕まえられる側の人間だからだ。

ここが悪用されないか、非常に気になる。

警察を恨む人の手に渡ったら

警察官の名簿を欲しがる人間は、実際にいる。

正直、自分の家族の顔が浮かんだ状態で、怖い相手の家へガサ入れ(家宅捜索)に踏み込めるだろうか?

今回とは別の事件だが、全国の繁華街で女性を風俗店へ送り込んでいたスカウトグループ「ナチュラル」は、警察を「ウイルス」と呼び、捜査員の顔写真まで仲間内で共有していたと報じられている。

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それに、日本には、警察官が本当に撃たれた事件だってある。

2012年4月、北九州市で、福岡県警の元警部が撃たれた。

暴力団・工藤会の捜査を担当していた人で、撃たれたのは退職後、勤め先の病院へ向かう途中の自宅から約300メートルの路上だった。

県警は退職後も元警部の自宅のまわりを見回っていたと報じられているが、それでも防げなかった。

 

海外には、名簿が本当に「敵」の手に渡ってしまった例もある。

2023年8月、イギリスの北アイルランド警察が、市民からの情報公開の求めに答えた資料に、全警察官の氏名と階級、所属をまるごと載せて出してしまった。

北アイルランドには、いまも警察を敵とみなす武装した過激派がいる。

警察は、その名簿が彼らの手に渡ったとみていて、名簿の一部が壁に貼り出されたことまで報じられている。

幸い、今回は、犯行声明も、盗んだ情報がネットにさらされたという話も、いまのところ明らかになっていない。

ただ、誰が盗んだのかはまだ何もわかっていないので、それが渡ってはいけないところへ渡っていないことを願うしかない。

本物の警察官の名前で詐欺が来る

実は、アルカディアのシステムからは、すでに142万件を超える不正なメールが送られていたという事実がある。

その多くは、クレジットカード会社の残高確認を装った、いわゆるフィッシング(本物を装ってカードの番号やお金をだまし取る偽メール)だったとみられている。

いま見えている動きだけで言えば、警察への恨みというより金目当てに近いと考えられるだろう。

ただ、金目当てなら金目当てで、別の怖さがある。

 

流出した個人情報は、ダークウェブ(闇サイト)で売り買いされている。

ハッカーの技術を社会で生かすための団体、日本ハッカー協会の代表理事によれば、2026年7月にエステの予約サイトから漏れた約3300万件が、約1100万円で売りに出されていたこともあるという。

 

お金目当ての人間が警察官の名簿を手にしたとき、いちばん使いみちがありそうなのが「ニセ警察詐欺」だ。

警察官を名乗って電話をかけ、LINEのビデオ通話に誘って、偽の警察手帳や、相手の名前が入った偽の逮捕状を見せてお金をだまし取る手口である。

警察庁によると、2025年だけで1万1014件、被害額は約1000億円にのぼった。

実在する警察署の電話番号を偽って表示させる手口まで出てきている。

名簿を手にした側なら、実在する警察官の名前と所属をそのまま正しく名乗れてしまうのも問題だ。

表示される番号は本物そっくりで、名乗る名前と所属は本物となれば、疑ってかかっていた人でも、つい信じてしまうかもしれない。

実際、広島県警では、実在する警察官を名乗る電話に気をつけるよう呼びかけている。

本物の名前を名乗られたときほど、一度電話を切って、自分で調べた警察署の番号へかけ直したほうがいい。

 

狙われるのは、一般の人だけではない。

警察官本人のもとにも、「〇〇署の△△さんへ」と名指しで、上司や県警を名乗るメールが届くかもしれない。

名前も所属も合っているメールを偽物だと見抜くのは、いくら警察官でも難しいはずだ。

侵入から気づくまで17時間

会社の報告では、10月11日の流れはこうだった。

  • 10月11日の朝6時26分、外部からの侵入が始まる
  • 夕方4時39分、システムの設定ファイルが盗まれる
  • 夜11時40分、データベース(名簿をしまっておく場所)の動きが異常に重くなって、会社が気づく
  • 12日の深夜3時、侵入の入口をふさぐ
  • 13日の深夜0時10分、仕掛けられた裏口を使って、不正なメールの送信が始まる
  • 15日の午後3時10分、すべてのサービスが元に戻る

侵入されてから気づくまで、17時間あまり、誰も止められなかった。

入口をふさいだあとも裏口は残っていて、142万3428通の偽メールは、ふさいでから約21時間後の夜中に、そこから送り出されていた。

侵入が始まってから全部が元に戻るまでには、約105時間かかっている。

 

侵入した側は、メールの添付ファイルを置いておくコンピューターの弱点を突いて、システムの鍵にあたる情報を盗み、そこから中へ入り込んだ。

中ではデータベースを書き換え、あとから出入りするための裏口まで仕掛けていたという。

「どうせ内部の犯行でしょ」と疑いたくなる気持ちもわかるが、会社の報告を見るかぎりは外からこじ開けられた形だから今後もこのようなニュースは続きそうだ。

会社は警察と話し合っていて、残っているアクセスの記録をもとに被害届を出す予定だという。

 

それと、もうひとつ気になるのが、こうした漏洩が知らされるまでのタイムラグだ。

会社が不正アクセスを公表したのは10月13日で、埼玉県警にもこの日に連絡が届いていた。

それでも、埼玉県警の件が報道で表に出たのは16日になってからだった(岡山県警は14日に全職員へ知らせている)。

この名簿がどう悪用されるのかは、結局のところ、いま誰の手にあるのかで決まる。

昨今の漏洩ニュースのほとんどがそうだが、その名簿がいま誰の手にあるのかは、まだどこからも出てきていないのがなんとも闇深いところだ。