ENHYPENファンが次々と去る…ENGENE離れます宣言の理由
みなちゃんの一件があってから、ネットで「ENGENE離れます」という一文を見かけた人も多いと思う。
ENGENE(エンジン)というのは、ENHYPEN(エンハイプン)というアイドルグループのファンにつけられた呼び名だ。
だから「ENGENE離れます」は、そのままファンをやめますという意味である。
その宣言が、ここ二日ほどのあいだに次々と出ている。
自分がENGENEなのが怖くてむり。降りたい
— にゃんず (@nyannramu) August 5, 2026
ただ、グループが嫌いになったという話は、ほとんど出てこないのである。
やめる原因になっているのは『まわりのファンのほう』だ。
気持ちのほうは残っているのに、その場所にはもういられない。
そういう宣言が、いくつも並んでいる。
ENHYPENファンの離脱が広がったきっかけ
ENHYPEN(エンハイプン)は2020年にデビューした韓国の男性アイドルグループで、日本人メンバーもいる。
そのファンの公式な呼び名がENGENE(エンジン)だ。
そしてファンダムというのは、そのファンたちが集まっている場のことを指す。
グループの話をしたり、チケットを譲り合ったり、現場の情報を交換したりする、ゆるい共同体だと思えばいい。
ただ、実際には細かい決まりがどんどん積み上がっていく世界でもある。
会場での振る舞い、グッズの扱い方、ネットでの見せ方。
どこを見るか、どのタイミングで声を出すか、その日の服装まで話題になることもある。
どれも、どこかに書いてあるルールではない。
それでも、越えたら怒られるラインだけは、たしかに引かれている。
長く通っている人は、そのラインの位置を感覚で覚えている。
あとから入ってきた人には、ラインそのものが見えない。
だから知らずに越えてしまい、何が起きたのか分からないまま責められる、といったことがしばしば起きる。
今回のきっかけは、たった二行の投稿だった。
ENGENE離れます。ENHYPENは好きだけどファンダムがこれだと耐えられない。
— 山崎銀 (@jay__4ever) August 5, 2026
この二行に、かなりの反応がついた。
そして同じ日のうちに、似た言い方の投稿がいくつも続いていった。
背景にあるのは、韓国で亡くなったと伝えられている一人の日本人女性ファンをめぐる出来事である。
コンサートでの振る舞いを一部のファンから批判され、謝罪したあとも過去の職業まで持ち出されて叩かれ続けたと言われている。
その人が亡くなったという話が一気に広がったのが、8月5日の朝だった。
この人は、六本木の夜の世界で一番になったことがある人だと紹介されていた。
夜の店で一番になるやり方が、推し活の場では一番やってはいけないことになる。
そこで何があったのかは、前の記事に順番どおりまとめてある。
この話が広がったあと、ファンをやめると書く人が目に見えて増えた。
割と初期の方からだけどここ最近特に一部ENGENEによるいじめみたいな叩きが本当に目に余る enhypenは好きだけどENGENEが怖すぎてもうこの界隈に居られない
— niko (@niko_u25) August 5, 2026
離れているのは、入ったばかりの人ではない。
そしてグループの活動に不満があるという話でもない。
対象への気持ちは変わらないまま、その周りに集まっている人たちのほうから逃げているのだ。
ライブへ行く予定を残したまま、行く気持ちのほうが先に削られた、と書いている人もいた。
チケットが当たったこと自体は、まだ嬉しい記憶のまま残っているのに、である。
叩いている人が全体のどれくらいなのかは、外からは分からない。
ただ、目に入る量が増えれば、そこが全部そういう場所に見えてくる。
あの二行は、もともとごく狭い範囲に向けて書かれたものだった。
身内に見せるつもりの一言が、ファンダム全体の意思表明として読まれていった。
読んだ人の数は、書いた人が思っていた数と桁が違っていたことになる。
誰に向けて書いたのかは、広がりはじめると誰も気にしない。
何も言っていないファンまで責められている
いま責められているのは、叩いた人だけではない。
一部のENGENEが度が過ぎていて、みなちゃんを苦しめたのは事実だけど、ENGENE全員がやばいみたいな扱いされててつらい。 ENGENEって名乗るだけで人殺しって言われるの?
— そんふんのとりこ (@shk6ly) August 6, 2026
一部が度を越したことを、この人自身は否定していない。
では、度を越したのが一部なら、残りの人たちはいったい何を責められているのだろうか。
叩いた側を叩く言葉が、叩いた覚えのない人まで巻き込んでいる。
一人を「こういう人間だ」とまとめたやり方が、そのままファン全体へ向けられている。
まとめた側は事実を言ったつもりで、まとめられた側は身に覚えのないもので殴られる。
亡くなったとされる人が浴びたのも、同じ言い方だったのだろう。
まとめたがるのには、それなりの事情もある。
相手の数が多すぎて、一人ずつ確かめていられないからだ。
そして名前のついている集団ほど、ひとまとめにするのが簡単になる。
ENGENEという呼び名があるおかげで、話は一行で済むようになる。
名前があると、怒りの向け先まで一行で済んでしまう。
その一行には、何もしていない人まで最初から入っている。
クラスの誰かがやったいたずらで、担任が全員を廊下に立たせるのと似ている。
やった本人には見当がついているのに、名前を呼ぶ手間を省いた結果、関係のない子まで一緒に立たされる。
立たされた側は、そのあと誰を恨めばいいのかも分からない。
しかも、ひとまとめにされると否定のしようがなくなる。
自分は何もしていないと言ったところで、集団の話にはならないからだ。
しかも今回は、まとめている側にも正しさがある。
一人が追い詰められた末に亡くなったかもしれない、という話なのだから、怒るのは自然なことだ。
正しさがあるぶん、手加減する理由がなくなる。
そしてこれは、今回のグループに限った話でもない。
別のグループでも、ファン同士の空気に耐えられずに降りた、という書き込みが今回いくつも出てきている。
数年前に降りた人が、今回のことを見て正解だったと書いている。
場所を変えて、同じことの繰り返し。
「民度が低い」で片づけると、次のグループでまた起きる。
片づけたほうが早いのは分かる。
ただ、早く済む説明ほど、次に同じ現場へ立ったときには何の役にも立たない。
グループではなくファンダムだけを離れる心理
離れると書いた文には、決まって同じ一言が入っている。
ENHYPENは好きだけど、ファンダム怖すぎて…私が追ってた頃は平和な方だと思ってたのに
— Ichinose (@kuromi_0827) August 5, 2026
対象への評価は、最後まで一度も下がっていない。
下がったのは、そこにいる人たちへの評価のほうだ。
ファンをやめると聞くと、普通は熱が冷めたのだろうと考える。
今回はそうではない。
嫌いにならずに済む距離まで、自分のほうから下がっているのである。
薄情に見えるかもしれないが、むしろ逆だと思う。
嫌な思いをした場所に居続けると、そのうち嫌な気持ちが対象そのものへ移っていく。
好きだったものを最後には見たくもなくなる、というのはよくある話だ。
そうなる前に降りておく、という判断である。
これは推し活だけの話でもない。
職場でも趣味の集まりでも、内容は好きなのに人間関係のほうで辞める人はいくらでもいる。
好きかどうかと、居続けられるかどうかは、別の話なのだ。
そして離れると決めた人が、その理由を誰かに説明してやる義理もない。
最初の二行には、こんな返信が付いていた。
わかるよ。ENHYPENは好きだけど、ファンダムの空気が重すぎて耐えられなくなったよね。自分のペースで音楽だけでも応援すればいいと思う。
— ⋆.ৎ (@endofsurfaces) August 5, 2026
推し活には正しい参加の仕方がある、という空気が強くなるほど、こういう静かな応援は隅へ追いやられていく。
現場に来ない人、グッズを買わない人、感想を書かない人は、だんだん数に入らなくなる。
熱量は目に見える行動でしか測れないので、静かな人は最初からいないことにされてしまう。
そして声の小さい人ほど、声の大きい人にまとめて代表されることになる。
今回いちばん広く代表になったのが、あの二行だった。
ENGENEという呼び名が決まったのは、デビューの一か月半ほど前だった。
韓国語での表記は「엔진」で、読み方はそのままエンジンだ。
つまりファンのほうがグループを走らせる側だ、という意味の名前である。
その走らせる側が、いま自分から降りると言い出している。
ただ、降りると書いた人は、グループのことを一度も悪く言っていない。
呼び名のほうは何も変わっていない。
変わったのは、その名前で集まっている場所のほうだ。
そもそもファンというのは、誰かに任命されてなるものではない。
名乗った日からファンで、やめると言った日からファンではなくなる。
会費を払っている人も、曲を聴いているだけの人も、同じ呼び名で呼ばれる。
その広さこそが、この呼び名のよさだったはずである。
それなのに、名乗ったというだけで責められている人がいる。
最初に広がったあの二行も、誰か一人に向けて書かれたものではなかった。
亡くなったと伝えられているあの人も、名前を呼ばれて注意されたわけではない。
名指しされていない言葉のほうが、受け取った側は自分のことだと思ってしまう。
いま離れると書いている人も、いつかまた戻りたくなるかもしれない。
そのときには、名乗るだけで責められる場所ではなくなっているといい。