韓国サッカー協会が、W杯予選などを裁いた外国人審判に性接待をしていた疑いが報じられている。

韓国の放送局が8月6日に伝えたもので、対象は2011年から12年にかけて韓国国内で開かれた7試合。

接待の場所はマッサージ店で、費用は協会の法人カードで支払われていたという。

 

そしてこの7試合の中には、日本人審判が笛を吹いた試合が含まれている。

2012年のW杯アジア3次予選、韓国対クウェート戦。

この試合の主審と副審、審判団4人は全員が日本人だった。

そのうち2人が性接待を受けたと報じられており、日本サッカー協会(JFA)が4人の調査を始めている。

 

僕も最初にこのニュースを見たときは「おいおい、まさか日本人も…」と思ってしまった。

今回はこの性接待疑惑で何が分かっているのかを、順番に見ていこうと思う。

性接待疑惑で分かっていること

発端は、韓国の放送局JTBCの報道である。

JTBCが入手したのは、韓国の文化体育観光部という、日本でいう文部科学省のような役所が2016年にまとめた監査報告書。

「大韓サッカー協会役職員などの不正調査結果」という、なんとも直球なタイトルの内部文書だ。

そこに、外国人審判への性接待が記載されていたというのだ。

 

対象とされているのは、2011年3月から2012年3月までの1年間に韓国国内で開かれた国際試合7試合。

内訳は、W杯や五輪の予選が3試合と、親善試合が4試合。

この7試合を担当した外国人審判や関係者など、10人を超える人たちが接待を受けたとされている。

国籍は日本のほか、UAE、イラン、バーレーン、ウズベキスタンなど。

接待の場所はソウルや蔚山(ウルサン)のマッサージ店で、性的なサービスを含む費用が協会の法人カードで支払われていたという。

誰かのポケットマネーではなく『協会の金』である。

そしてこの監査報告書は、作られてから10年ものあいだ、表に出ることがなかった。

日本人審判は受けたのか?

問題のクウェート戦を、もう少し詳しく見てみたい。

2012年2月29日、ソウル。

W杯アジア3次予選の大詰めで、韓国にとっては最終予選に進めるかどうかがかかった大一番だった。

結果は2-0で韓国の勝利。

この試合の審判団4人が、全員日本人だったわけだ。

 

監査報告書によると、試合当日にソウル江南区のマッサージ店で50万ウォン、日本円にしておよそ5万5000円が協会の法人カードで決済されている。

文化体育観光部は、これをクウェート戦の審判2人に対する性接待の費用と判断したという。

4人のうちの誰が受けたとされているのかは、公式には特定されていない。

ただ、韓国メディアは現在も日本サッカー協会で審判を統括する立場の人物が含まれていると報じており、日本の一部メディアでは実名まで挙がり始めている。

JFAは4人の日本人審判員を調査していて、調査後には結果を公表する方針だという。

ネットでは「日本人が受けてたなら韓国のことを非難できない」という、気まずさをにじませた声が目立っていた。

他国の不祥事だと思って眺めていたら、自国の審判が渦中にいたのだから、疑いの目で見たくなるのも無理はない。

ただ、受けたとされる2人が誰なのか、そもそも本当に受けたのか、白とも黒とも言い切れる材料はまだ外に出ていない。

ここから先は、JFAの調査の結果を待つしかない。

接待のあった7試合で負けなし

では、接待があったとされる7試合で、韓国はどんな成績だったのか。

 

5勝2分け

1敗もしていない。

 

クウェート戦は2-0。

五輪予選のオマーン戦も2-0で、カタール戦は0-0の引き分け。

親善試合の中国戦は1-0だったと、韓国メディアが伝えている。

 

もちろん、当時の韓国代表がホームで強かっただけ、という見方もできる。

実際、韓国メディアが当時の試合映像を検証したところ、勝敗を左右するような偏った判定は確認されなかったらしい。

じゃあ問題ないのかというと、そんな話ではない。

学校のテストでいえば、採点をする先生が、採点の前の晩に一部の生徒の親からごちそうになっていたようなものである。

たとえ採点そのものが公平だったとしても、それを知ったほかの生徒はもう結果に納得できない。

判定が実際に曲がったかどうかより先に、「公平に裁いてもらえる」という信用のほうが壊れるのだ。

FIFAが審判への金品やサービスの提供を厳しく禁じているのは、まさにここを守るためだ。

 

無敗という結果は、偶然かもしれない。

ただ、接待の記録と負けなしの記録が同じ1年間に重なっていて、それを笑って流せる人は少ないと思う。

弁護士の紀藤正樹も、こう投稿していた。

そしてこの話、掘れば掘るほど嫌な事実が出てくるのだ。

決裁書類に『審判マッサージ』

この件でいちばん引っかかるのは、金額でも試合結果でもない。

お金の流れが、あまりにも堂々としていたことだ。

 

報道によると、接待の費用は当初、「飲酒」や「食事」といった別の名目で決裁を受けていた。

ところが、だ。

そのうち決裁書類に「審判マッサージ」と記載して申請するケースまで出てきて、複数の職員の決裁を経て、副会長までサインしていたと報じられている。

隠す気があったのかどうかすら、怪しい。

こっそり行われていた不正ではなく、書類が普通に通ってしまう「業務」だったわけだ。

文化体育観光部も2016年の時点で、「協会レベルで組織的に審判を接待したものとみられる」と判断している。

 

さらに嫌なことに、接待の対象には審判だけでなく、試合の運営全体を監督する立場の監督官まで含まれていたとされる。

審判をチェックするはずの側の人間まで、同じもてなしを受けていたことになる。

うーん…。

いったい誰が誰を監督するのだ、という話である。

ちなみに協会の職員は当時の調査に、「外国人審判のほうが空港や宿舎で先に要求してきた」と説明したらしい。

仮にそうだったとしても、それに法人カードで応えて決裁まで回した理由の説明には、なっていない。

 

そして監査報告書が指摘していたのは、審判への接待だけではなかった。

役職員の遊興やゴルフなど、法人カードの私的な使用があわせて2億ウォンあまり

性接待は、その中の一部にすぎなかったのだ。

なぜ14年前の話が今出てきたのか

ここで、時系列を並べてみたい。

  • 2011〜12年:7試合で性接待があったとされる
  • 2016年:文化体育観光部が監査で把握
  • 2026年8月6日:警察が協会本部を家宅捜索
  • 同じ日:JTBCが監査報告書をもとに報道

引っかかるのは、2016年から2026年までの空白の10年である。

監査で把握されていたのに、当時は公表されず、大きな処分もないまま終わっている

協会は「文書の保存年限が過ぎていて確認が難しい」と説明しているが、その確認の材料になるはずの報告書は残っていて、いまテレビ局の手元にある。

 

じゃあ、なぜこのタイミングで出てきたのか。

韓国代表はこの6月、W杯の1次リーグで敗退した。

その責任を巡って協会への批判が噴き出し、国会では前監督の選考過程が追及され、8月6日には警察がその選考問題の捜査で協会本部への家宅捜索に入っている。

性接待の報道が出たのは、その同じ日だ

協会が弱り切ったこのタイミングで、10年間眠っていた報告書が引っ張り出されてきたのである。

 

追い打ちを受けた協会は8日に声明を出したのだが、これがどうにも歯切れが悪い。

「協会内部の人間も十分に把握していない十数年前の出来事」

「現在このような不適切な行為やカードの使用は絶対に行っていない」

いまはやっていない、というのは、そうであってほしいと思う。

ただ、14年前のことを「確認が難しい」で終わらせてよいかどうかは、まったく別の話である。

審判はもてなしを断れたのか

最後に、審判の側からこの話を見てみよう。

国際試合の審判は、試合のたびに知らない国へ呼ばれ、開催国のもてなしの中に放り込まれる。

移動も宿も食事も、多くは受け入れる側が手配する。

そのもてなしの、どこまでが礼儀で、どこからが接待なのか。

線を引くのは、実はかなり難しい仕事なのだと思う。

 

まして相手は、自分を試合に招いた協会である。

断れば角が立つし、次に呼ばれなくなるかもしれない。

韓国側の職員が説明したように、審判の側から求めたのだとしたら、それはもう論外である。

ただ、開催国が「もてなし」の顔をして差し出してくるものを、たった一人で断り続けるのも簡単ではなかったはずだ。

 

だからこそ、JFAの調査には意味があると思っている。

受けたのか?

断ったのか?

そもそも知らなかったのか?

4人それぞれの14年前が明らかになれば、疑いの目を向けられたままの人が、そこから解放される可能性だってある。

調査の結果は公表されるという。

14年前に何があったのか、いまさらすべてが分かるとは限らない。

それでも、何も知らずにピッチを走っていた選手たちのためにも、うやむやのまま終わらせないでもらいたい、というのが多くの人たちの願いだろう。