滋賀県の長浜市・彦根市・高島市で2026年8月22日に開かれるはずだった「琵琶湖三市同時花火大会」が、開催の13日前になって中止を発表した。

3つの市の湖岸から、同じ夜に同時に打ち上げる。

そういう触れ込みの、1万発規模の大会だった。

 

席は全席指定の事前販売で、7,000円から19,000円

駐車場も事前予約の有料で、会場周辺への直接の来場は禁止。

出店したい人からは、1店あたり5万円を集めていた。

 

ネットの反応は、中止が出るより前から一色だった。

「これ、詐欺じゃないの?」

僕も、正直そう思った一人である。

今回は、この花火大会がなぜここまで疑われることになったのか、そして先に払った金はどうなるのかを、順番に見ていこうと思う。

三市が『関与していない』と発表した花火大会

この大会の告知が動き出したのは、去年の年末ごろである。

公式サイトのドメインが取られたのが2025年12月で、チケットの販売が始まったのが今年の1月下旬。

サイトには「一夜限り、琵琶湖が立体になる」「三方向同時打ち上げ」といった言葉が並び、来場者数を管理した落ち着いた空間で観てもらうという設計が、やたらと強調されていた。

 

無料で押し合いへし合いする花火大会とは違いますよ、と。

文句だけを取り出せば、むしろ今どきの丁寧な興行に見える。

問題は、そこから先が一向に見えてこなかったことだ。

開催が近づいても、肝心の打ち上げ場所が公表されない。

問い合わせても「関係機関と最終調整中」。

そして怪しむ声がネットで一気に広がった8月5日、実行委員会はチケットの販売を止めた

 

翌6日、長浜市・彦根市・高島市の3つの市が、そろって公式サイトに文書を出す。

「主催・共催等には関与していない」

自分の市で開かれるとされている大きなイベントについて、自治体がわざわざ「うちは関係ありません」と書く。

これはかなり異例のことである。

 

ただ、3市が言ったのは「そんな花火大会は存在しない」ではない。

「うちは主催でも共催でもない」だ。

つまり自治体が一切かんでいない、まるごと民間の企画だったということが、この時点でようやくはっきりした。

そして9日、中止の発表。

「開催日までに大会を実施するために必要な準備・運営体制を整えることが困難であると判断し」——延期も振替もなし、今後の開催予定もなし。

それにしても「琵琶湖三市同時花火大会」というネーミングだけは、よくできていたと思う。

『三市同時』

この4文字があるだけで、なんとなく自治体が絡んだ大きな大会に見えてしまう。

そして実際、その名前のおかげで問い合わせは3つの市役所へ殺到した。

関わってもいない自治体が、この大会のいちばんの問い合わせ窓口になってしまったわけである。

花火大会は勝手に開けない

花火を1発でも上げるには、許可がいる

打ち上げ花火は火薬類取締法という法律の対象で、火薬を「消費」する——要するに燃やす——ためには、どこで、どれだけの量を、まわりからどれだけ離して上げるのかを申請して、審査を受けなければならない。

場所と金と花火屋がそろえば開ける、というものではないのだ。

 

読売新聞の取材に対して、彦根市消防本部はこう答えている。

1万発規模なら、開催の1か月ほど前には火薬の使用許可を申請してもらわないと間に合わない、と。

では、8月7日の時点で申請は出ていたのか。

なんと、出ていないのだ。

これは書類が1枚足りない、という話ではない。

1万発を上げる大会となれば、消防のほかに警察が動き、警備と救護の人員が付き、湖の上の安全まで見なければならない。

複数の部署と業者が、同時に動く仕事である。

本来なら署内で当然のように知れ渡っている規模だ、というのが消防側の説明だった。

その規模の話が、開催2週間前になっても1件も届いていなかったのである。

 

しかも、入口まで来ていなかったわけではない。

長浜市には2025年12月と2026年1月の2回、主催者側から相談があったという。

市は、警察や消防への手続きを進めるように伝えている。

それから半年以上たって、申請はゼロ。

動く時間は、十分にあったはずである。

 

一方で、5万円を払って出店する予定だった人は、不安になって自分で地元の消防に確かめに行っている。

返ってきた答えは「何の協議もできておらず、花火大会をやるとは思えない」だった。

主催者が言わないことを、金を払った側が自分の足で確かめる。

順番が完全に逆になっている。

琵琶湖の形がおかしい?後出しだった打ち上げ場所

疑われた理由は、法律の話だけではない。

というより、ネットで最初に火がついたきっかけは、もっと単純なところにあった。

 

公式のポスターに描かれた琵琶湖の形が、どう見ても琵琶湖ではないのだ。

 

滋賀県民が県外の人につい自慢してしまう、あの独特の形。

それが縦に伸びすぎているというか、くびれの位置が違うというか、とにかく別の湖になっている。

テレビの報道でも「本来の形とは大きく異なる」と指摘されていた。

琵琶湖を売りにした大会のポスターで、琵琶湖の形を間違える。

ここで多くの人が「ん?」となった。

そして、いま見返すと不自然な点がいくつも並んでいる。

  • 打ち上げ場所は開催1週間前にメールで案内するという、徹底した後出しの設計
  • 会場周辺への直接来場は禁止で、移動は有料の予約駐車場とシャトルバスのみ
  • 事務局の住所は2026年6月で使用を終えていた(公表されたのは中止発表のとき)

特に3つ目である。

中止のお知らせの中に、こういう一文がある。

「現在、当該所在地は琵琶湖三市同時花火大会実行委員会の事務局ではございません」

 

チケットが売られているあいだ、事務所はすでに畳まれていた。

そして買った人がそれを知ったのは、中止が決まった日だったわけだ。

 

有料席という設計そのものは、べつに悪ではない。

無料の花火大会が場所取りとゴミとマナーで疲弊して、有料の管理型に切り替わっていくのは、いまや全国的な流れである。

ただ「無料で見える場所を作らない」という設計は、裏返せば、開けなかったときの損を全部お客さんが背負う形にもなる

今回はそこが、そのまま出てしまった。

計画的な詐欺か、身の丈を超えた企画か

最初から金を集めるための架空のイベントだったのか。

それとも、やる気はあったけれど無理だっただけなのか。

ネットの見方も、そこで割れている。

疑いの目で見たくなるのは、無理もないと思う。

申請はゼロ、会場は最後まで非公開、事務所は6月に閉じていて、返金は明言しない。

黒だと言われる材料は、正直かなり揃っている。

 

意外かもしれないが、逆を向いている事実もある。

主催者側は、長浜市に2回、自分から相談へ行っている。

通販サイトの下のほうに必ずある「特定商取引法に基づく表記」の欄には、代表者の氏名も住所も載せていた。

8月4日の夜には出店者を集めて説明会を開き、3会場の打ち上げ場所まで説明して、「中止の場合はご返金します」と伝えている

 

金だけ抜くつもりの人間が、市役所の窓口に自分から出向くだろうか。

自分の名前と住所を晒すだろうか。

もちろん、それも含めて全部が芝居だったという見方はできる。

できるのだが、いまの時点では、白と言い切る材料も、黒と言い切る材料も、外側には転がっていない

ここはグレーのまま置いておくしかない。

 

僕がむしろ気になっているのは、1万発を三市同時で上げるという企画の重さのほうだ。

  • 花火屋と契約を結ぶ
  • 上げる場所のまわりをどれだけ空けるか計算する
  • 警備と救護の人員を手配する
  • 交通規制を警察と詰める
  • 湖の上の安全を確保する

それを3か所で、同じ日の同じ時刻に、である。

これを民間の実行委員会が単独で回すのは、たぶん想像の何倍もしんどい。

夢の大きさに、人手も段取りもまるで追いついていなかった

そう考えるほうが、まだ話がわかる。

そして皮肉なことに、その『三市同時』という看板そのものが、問い合わせを3つの市役所へ集中させ、異例の声明を引き出し、自分の首を絞めることになった。

返金はどうなる…三陸花火の前例

で、結局のところ、払った金は返ってくるのか。

 

8月4日の説明会では「中止ならご返金」と言っていた。

ところが9日に出た正式な発表文には、「返金」という言葉が一度も出てこない

代わりに書かれているのは、こうだ。

「現在、法的専門家への相談を行いながら、対応内容の確認・整理を進めております」

そして当面のあいだ、メールも問い合わせフォームもSNSも、個別の回答は控えるという。

 

言葉づかいとしては丁寧なのだが、受け取る側からすれば「返します」から「相談中です」に格下げされている

不安になるなというほうが無理な話である。

そして、この手の話にちょっと重い前例もある。

去年の5月、岩手県陸前高田市で開かれるはずだった三陸花火大会が、開催の10日前に急に中止になった。

理由は資金不足。

チケットを買っていたのは少なくとも1,700組、金額にして約2,500万円

それが、1年以上たったいまも返っていない。

 

実行委員会は「返金に回す資金が手元に残っていない」と説明し、2025年の9月ごろからは代表者と一切連絡が取れなくなっている

市が実態調査に乗り出し、地元の有志が新しく作った実行委員会が別の花火大会を開いて、返金を受けられなかった人にチケットの割引という形で救済を試みている状況だ。

本来の主催者ではなく、地元が肩代わりしている。

 

裁判で戦えばいいじゃないか、とも思う。

実際、去年の11月には大阪地裁が、強風で中止になったランタンのイベントについて「返金義務がある」と認めている

規約に「非常事態のときは返金しない」と書いてあっても、強風はそこには含まれない、という判断だった。

法律は、けっこう買った側の味方をしてくれるのだ。

 

ただ、ない袖は振れぬという昔ながらの壁がある。

判決を取っても、相手の手元に金が残っていなければ、そこで止まる

三陸で起きているのは、まさにそれだ。

 

先にお金を集める仕組みというのは、結局のところ、集める側の信用にまるごとぶら下がっている。

そういえばダレノガレ明美も、梨を盗まれた農家への支援金を集めるとき、あえてクラウドファンディングを使わなかった。

そしてそのやり方に、今度は「個人情報を抜かれるぞ」という警告が飛んできた。

ダレノガレ明美
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実行委員会は、いつ・いくらを・誰に返すのかを、まだ一行も書いていない。

その一行が出てくるのかどうか。

ここからの続報が、いちばん気になるところだ。