やせ薬として広まった糖尿病の注射「マンジャロ」に、「骨」の心配が向けられている。

ネットには、こんな声まで上がっている。

「女性ホルモンが減る年代に使うなんて狂気の沙汰」

週に1回、お腹に注射を打つだけで食欲が落ちて、みるみる痩せていく…。

年齢とともに体重が落ちにくくなるのは男も同じなので、正直、その誘惑はわからなくもない。

ただ、骨だけでなく、筋肉や見た目、辞めたあとの体重、命に関わる副作用まで、痩せた代わりに背負うかもしれないものは思っていたよりずっと多い。

で、その裏では、処方箋なしの闇の販売まで起きている。

ということで、今回はマンジャロのリスクについてまとめてみた。

ちょっと痩せたい人は対象外の薬

マンジャロは、日本では2023年4月に2型糖尿病の治療薬として発売された注射である。

2型糖尿病というのは、生活習慣が深く関わるいちばん多いタイプの糖尿病だ。

血糖値を下げるのと一緒に食欲まで落としてくれるので、そこに目をつけた人たちのあいだでダイエット薬として一気に広まってしまった。

 

保険でマンジャロを使えるのは、2型糖尿病の人だけだ。

2025年4月には同じ成分の薬が肥満症の治療薬「ゼップバウンド」として発売されたが、こちらも保険で使える人はごく一部である。

その条件が、なかなか厳しい。

ざっくり言うと、次の3つがそろったときに限られる。

  • 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のどれかがある
  • 食事と運動を続けても効果が出ない
  • BMI(体重と身長から出す肥満度の数字)が35以上か、27以上で肥満に関係する病気が2つ以上ある

身長160センチの人でいえば、BMI27でおよそ69キロ、35ならおよそ90キロ。

つまり「夏までにあと3キロ落としたい」くらいの人は、まったくの対象外というわけだ。

それでも、美容クリニックやオンライン診療では、保険の効かない自由診療としてマンジャロが処方されている。

販売元の日本イーライリリーは、2026年6月の時点で美容・痩身・ダイエット目的での効果と安全性は「医学的に確認されておりません」と言い切っている。

要するに、作っている会社が「その使い方は確かめていない」と言っている薬を、みんなで打っているということになるわけだ。

 

しかも、2023年にはこうした糖尿病の注射が足りなくなり、マンジャロと同じく食欲を抑えるタイプの糖尿病の注射「オゼンピック」の一部が限定出荷になった。

日本医師会の緊急調査では、薬が手に入りにくくなった例が全国で900件以上あったと報じられている(病院で出すケースと薬局で出すケースの合計)。

医師会からは、品薄の背景にダイエット目的の使い方がある、という指摘まで出ていた。

本当にその薬が必要な糖尿病の患者さんに、しわ寄せが行ったわけだ。

日本糖尿病学会も、美容やダイエット目的の自由診療での処方を宣伝する広告が散見される、と注意を呼びかけている(2023年11月)。

マンジャロの怖い副作用について

さて、「マンジャロで痩せる」と聞くと、お腹の脂肪だけがきれいに落ちていく姿を、つい思い浮かべてしまうと思う。

ところが、海外の臨床試験で筋肉や脂肪の量まで測った分析を見ると、どうもそんなにうまい話じゃないことがわかってくる。

マンジャロと同じ成分を1年半ほど使った人たちは、体重が平均で約2割減ったのだが、減った体重のうち約4分の1は脂肪以外の筋肉等だったのである。

 

これは実に恐ろしいことじゃないだろうか。

たとえば20キロ痩せたとすると、そのうち5キロほどは脂肪ではない部分が減った計算になる。

減った体重に占める筋肉の割合はプラセボ(薬の成分が入っていない注射)の人たちと同じくらいだったが、マンジャロで落ちる体重はプラセボの4倍ほどにもなるので、その分だけ筋肉も大きく削られることになる。

食欲が落ちて食べる量が減れば、筋肉や骨の材料になるたんぱく質やカルシウムも一緒に足りなくなっていく。

本来、肥満症の治療として同じ成分の薬を保険で使う場合は、食事と運動の療法に加えて、管理栄養士の栄養指導まで受けることになっている。

ところが自由診療のダイエットでは、注射だけを受け取って、あとは「食べなければ痩せる」で突っ走る人もいるのだろう。

こんな【不健康な痩せ方】がブームになっているわけだ。

 

とくに心配する声が上がっているのが、40代後半から50代の女性。

閉経が近づいて女性ホルモンが減ると、何もしなくても骨密度は落ちやすくなる。

2026年10月には、俳優の飯島直子(58)が人間ドックで骨密度がC判定(再検査や生活の見直しが必要とされる段階)だったと明かし、「昨年まではよかったのに」と驚いていた。

本人がマンジャロを使っていたという話はどこにもないが、こういった報告にもすぐにマンジャロと結びつける声が上がっている。

 

そうやって歳をとった際、閉経前後の骨に急な減量が重なると、いったいどうなるのか?

マンジャロの仲間にあたる別の薬(セマグルチド)の調査において、参加者の多くが閉経後の女性だった試験がある。

そこでは1年使った人は、使わなかった人より股関節の骨密度が下がっていたという結果が出ている。

研究チームの見立てでは、体重が減ったことで骨が壊されるスピードが上がったのかもしれない、とのことだ。

 

さらに、マンジャロそのものでも、アメリカを中心とした診療データを調べた研究で、オゼンピックなど、ほかの同じタイプの薬を使った人より骨粗しょう症や骨折が見つかる割合が高かった、という報告が出ている。

要するに、体重が減ると骨密度まで落ちることが試験で見えているというわけだ。

痩せたのに老けこむ顔

骨の変化は目に見えないが、顔の変化はどうしても人目についてしまう。

痩せたのに5歳老けたんじゃ、何のために痩せたのかわからない。

アメリカではこの現象に「オゼンピック顔」という名前までついている。

マンジャロと同じタイプの糖尿病薬「オゼンピック」(さっきのセマグルチドの商品名)で急に痩せた人の頬やこめかみがこけて、たるみが目立ってしまうことを指す言葉である。

 

名付け親とされるニューヨークの美容皮膚科医によると、40代半ばを過ぎると、4.5キロ痩せただけでも顔がしぼんで見えることがあるという。

最近、元巨人の元木大介やパパイヤ鈴木の激ヤセが話題になっていたが、やはり老けて見えてしまうのか病気の噂も絶えない(ちなみに激ヤセの原因は不明である)。

 

アメリカでは、顔の形成外科医の学会が、こうした薬の影響とみて、2024年に顔へ脂肪を注入する手術が前の年より50%も増えたと報告しているほどだ。

薬で顔の脂肪を落として、お金をかけて手術で顔に脂肪を戻すのだからなかなか笑えない。

いやはや、おじさんの側からすると、耳の痛い話だ…。

いまや急に痩せた人を見ると、薬を疑う書き込みまで出ている。

「最初はすげえ努力頑張ったんだなって感心してたのにマンジャロかよダッセー」

 

見た目の話でいうと、ネットでじわじわ増えているのが抜け毛の声だ。

「マンジャロ、3ヶ月で10キロ近く痩せたら抜け毛(はげ)が始まってきた。」という書き込みもあれば、やめていた2〜3週間は抜け毛が減ったのに、再開したらまた増えた、と書く人もいる。

その一方で、ダイエット向けにマンジャロを出しているオンライン診療のアカウントの中には、「医学的には“脱毛の副作用”は報告されていません」と書いているものまである。

ところが、同じ成分の薬のアメリカの説明書には、5%以上の人に出た副作用として抜け毛がはっきり並んでいて、女性では7.1%、男性では0.5%だったとのこと。

しかもその抜け毛は、体重が減ったことに関連していた、と書かれている。

急に痩せると髪が抜けやすくなるのなら、女性に多いことも、やめたら減ったという声も辻褄が合う(日本人で同じ割合になるかまでは分からない)。

少なくとも、「副作用は報告されていません」と言い切る売り手の言葉は、そのまま信じないほうがよさそうだ。

やめた途端に戻ってくる体重

それでも、痩せたらやめればいいじゃないか、と思うかもしれない。

ところが、やめた人たちを追いかけた試験があって、これがなかなか興味深い。

ある臨床試験では、まず全員が8か月ほど使って平均で約2割痩せたあと、半分の人をプラセボ(偽薬)に切り替えて様子を見た。

すると、プラセボに切り替えた人たちは、その後の1年でせっかく落とした体重の半分ほどが戻ってしまったのである。

落とした体重の8割以上を保てた人は、使い続けた人ならほぼ9割いたのに、やめた人ではわずか16.6%だった。

ピンクのニットで、ピンクのベストでおなじみのオードリー春日みたいになってしまうのは、さすがに笑ってしまったが、本人にとっては笑いごとではないのだろう。

しかも厄介なことに、痩せるときに筋肉まで一緒に落としていれば、体重だけが元に戻ったときには、前より筋肉が少なく脂肪が多い体になっているかもしれないのだ。

 

そうなると、やめるのが怖くなって、毎月お金を払い続けるしかなくなる人も出てくるだろう。

これを「痩せた」と喜んでいいのか、ちょっと考えてしまう。

いや、考えるまでもなく不健康だからダメだわ。

救急搬送された人もいる副作用

ちょっと痩せたいだけのつもりが、救急車で運ばれる。

厚生労働省が、そんな実例まで出して注意を呼びかけている。

何度も吐いて、動けなくなる…。

そこまでいくと、もうダイエットどころの話じゃない。

 

では、なぜそんなことになるのか?

カギになるのが「ケトーシス」という状態だ。

ケトーシスとは、食べる量が極端に減って、脂肪を分解するときにできる「ケトン体」が血液の中に増えた状態のことだ。

これが進んで血液が酸性に傾くと「ケトアシドーシス」になり、吐き気や意識の乱れが出て、命に関わる。

2026年10月には、厚生労働省が全国の自治体へ通知を出し直し、美容や痩身の目的で使った人から「ケトーシス」に関係する副作用の報告が届いていると警告した。

日本肥満学会も同じ時期に、過度な食事制限をしながらこうした薬を使うのは「絶対に避けて」と訴えている。

つまり、食欲を落とす注射に、自分でさらに食事制限まで重ねるのが、いちばん危ないということだ。

 

報道によると、日本で美容目的で使ったあとに副作用が疑われたケースは、この3年余りで35件。

低血糖、膵炎(すい臓の炎症)、そしてケトアシドーシスまで含まれていたという。

 

これがイギリスになると、もっと重い数字が出てくる。

2025年に入ってから11月末までに、マンジャロと同じ成分の薬で副作用が疑われた重い例だけで5,477件、亡くなったケースは53件も報告されているのだ。

報告の8割以上が女性で、亡くなったケースでも4人に3人が女性だった。

もちろん、報告があったからといって、薬が原因だと決まったわけではない。

それでもイギリスは2025年10月、患者向けの説明書に「急性膵炎は重く、命に関わるおそれがある」という意味の注意書きを新しく加えている。

国が説明書を書き足すくらいだから、軽く見ていい数字ではないのだろう。

 

しかも、ここまでは「無茶な使い方をしたら」の話である。

薬の説明書(添付文書)を開くと、正しく使っても起こりうる重い副作用として、こんな名前が並んでいる。

  • 低血糖
  • 急性膵炎
  • 胆のう炎・胆管炎
  • 腸閉塞
  • アナフィラキシー(激しいアレルギー反応)

吐き気や下痢、便秘になると、もっとずっと身近だ。

国内の試験では、量を増やすと5人に1人ほどが吐き気を訴えていた。

 

説明書を読み進めると、思わぬところに落とし穴もある。

ひとつは、ピルとの関係だ。

使いはじめや量を増やした直後は、飲む避妊薬(ピル)の効き目が弱まるおそれがある。

しかも妊娠中は使えない薬なので、最後に打ってから1か月は避妊が必要だと書かれている。

もうひとつは、手術のときだ。

この薬には、胃の中身をなかなか空にしない作用がある。

そのせいで、手術前の絶食をちゃんと守っていたのに、全身麻酔の最中に胃の中のものが肺へ入ってしまった例まで載っている。

痩せるために打った注射なのに、手術のような関係のない場面にまで影響が出るということだ。

 

そして、いちばん怖いのはここからである。

薬を正しく使ったのに重い副作用が出た人には、国が医療費などを給付する「医薬品副作用被害救済制度」という仕組みがある。

ところが美容目的で使った人は、国の「医薬品副作用被害救済制度」で給付を受けられない可能性が「非常に高い」と、厚生労働省自身が書いているのだ。

救急車で運ばれて入院しても、国の救済は当てにできないかもしれない。

結局のところ、体を壊しても「自己責任」で片づけられかねないということだ。

売れる商品になったマンジャロ

困ったことに、マンジャロはいまや「売れる商品」になってしまっている。

実際、2026年6月には大阪府警が、ネットでマンジャロを許可なく売っていたとして、男女3人を書類送検した。

10月には警視庁が、処方箋を持たない客にマンジャロなどを売ったとして薬局の関係者2人を逮捕し、その薬局は開業から約6,500万円を売り上げていたとみられている。

 

同じような筋書きは、前にもあった。

2002年には、中国から個人輸入されたやせ薬「御芝堂減肥こう嚢」などで肝臓を壊す人が相次ぎ、亡くなった人まで出て、厚生労働省が製品名を公表して注意を呼びかけている。

違うのは、今回は日本で承認された本物の薬が、医師の処方という正規の入口からダイエットへ流れ出ていることだ。

 

それどころか、外国からも人がやって来ている。

韓国では、日本で安く処方してもらって持ち帰る旅行が「スシジャロ」と呼ばれているらしい。

報道によれば、韓国の4分の1ほどの値段で手に入るという。

こうした持ち帰りを受けて、2026年10月には厚生労働大臣が「長すぎる期間の分をまとめて処方するのは適切ではない」と苦言を呈したほどだ。

 

じゃあ、ダイエットで打つ人は、いったいいくら払っているのか?

国が決める薬の値段(公定価格)だと、いちばん少ない量のマンジャロは1本1,443円。

4本そろえても、6,000円に届かない。

ところが自由診療のダイエットでは、同じ4本に初回だけで1万円から3万円ほどの値段がついている。

診察料などが含まれるとはいえ、高いところでは5倍ほどだ。

この差額があるからこそ、ダイエット目的のマンジャロは商売として回っているのだろう。

2026年10月30日、厚生労働省が、処方箋なしで売る薬局の情報を保健所へ寄せるよう呼びかけたことには「矛先が違う」という怒りも出ている。

実際、打ちたい人が気軽に手を出せてしまうのは、オンラインで簡単に処方してくれるクリニックがいくつもあるからだ。

 

そのオンライン診療でも、トラブルは起きている。

国民生活センターには、20代の女性からこんな相談が寄せられている。

オンライン診療でやせ薬の注射を4本約2万円で買ったものの、体に合わなかった。

あとで確かめると、いつの間にか定期購入になっていた。

キャンセルを申し出ても、「医薬品なのでキャンセルできない」と言われたという。

体を守るはずの医療を、解約できないサブスクみたいに売っているのは闇深い。

 

そもそも、適応外の薬を使う自由診療は、広告そのものが原則として禁止されている(2026年6月の厚生労働省の通知でも改めて示された)。

それでも、広告の代わりに、人気者の口から薬の名前が広がっていく。

 

そして、マンジャロを勧める人と売る会社がつながっていた騒動まである。

2026年5月、人気キャバ嬢のインフルエンサーが、出演していたオーディション番組で挑戦者にマンジャロを勧めて炎上した。

本人は「私はマンジャロ初めて打ったとき、1カ月で5キロ痩せました」と話し、批判されると「日本人ってなぜここまでマンジャロに批判的なのでしょう?」と言い返していたと報じられている。

彼女は、マンジャロを扱うオンラインサービスの公式アンバサダーでもあった。

しかも番組の中では、MCを務めた実業家の溝口勇児が、そのサービスに自分も出資していることまで明かしていた。

結局、彼女は6月3日に「今回の発信が薬機法上の問題を含むものであったことを、真摯に受け止めております」と謝罪し、キャバクラ以外のインフルエンサー活動を休むことになった。

薬機法は、薬の広告や販売のルールを決めた法律である。

広告では売れない薬だからこそ、人気者のひと言のほうがよほど強い宣伝になってしまうのかもしれない。

 

もちろんマンジャロは、糖尿病や肥満症の治療で、医師の管理のもとで使えば、体重や血糖値を大きく改善できる薬ではある。

痩せたいという気持ちそのものは、誰にだってある。

困るのは、その気持ちにつけ込んで、骨や筋肉のリスクも、国の救済からこぼれることも言わずに、注射を気軽に売る人や勧める人がいることだ。

「痩せたいならマンジャロ」と軽く勧めてくる人が、本当にあなたの健康を考えているのだろうか?

そこは注意深く見ておいたほうがいいだろう。

この記事で参考にした情報

  • 薬の承認と使い方:マンジャロ皮下注の添付文書(日本イーライリリー)、厚生労働省の通知(2026年6月16日・10月14日)、厚生労働省「医薬品の個人輸入・適応外使用」に関する注意喚起のページ
  • 筋肉と骨:SURMOUNT-1試験の体組成の解析(Diabetes, Obesity and Metabolism)、閉経後の女性を中心としたセマグルチドの試験(2024年)、チルゼパチドと骨粗しょう症・骨折の関係を調べた観察研究(2025年)
  • リバウンド:SURMOUNT-4試験(JAMA、2023年)
  • 2023年の品薄:日本糖尿病学会の見解(2023年11月28日)、日本医師会の緊急調査の報道(薬事日報)
  • 顔の変化:CNNの報道(2025年8月)、米国顔面形成外科学会の調査、ゼップバウンドのアメリカの添付文書(抜け毛)
  • 副作用の報告:共同通信の報道(2026年9月)、イギリスの副作用報告の集計(The Pharmaceutical Journal、2025年11月)
  • 注意喚起と事件:日本肥満学会の声明(2026年10月)、国民生活センターの注意喚起(2026年6月)、大阪府警・警視庁の摘発の報道(2026年6月・10月)、中国製やせ薬の健康被害についての厚生労働省の発表(2002年7月)、インフルエンサーの謝罪の報道(J-CAST、2026年6月)
  • お金:中央社会保険医療協議会の薬価の資料(2026年)、自由診療の価格の調べ(2026年6月)
  • 骨密度の話題:飯島直子の人間ドックの報告(ENCOUNT、2026年10月28日)

※この記事は医療の助言ではない。

薬の使用や体の不安については、必ず医師に相談してほしい。