札幌市東区の路上で、14歳の男子中学生が、13歳の男子中学生の胸をアイスピックで刺したとして逮捕された。

2026年10月20日の午後4時すぎ、場所は札幌市東区東苗穂11条3丁目付近の住宅街だ。

刺されたのは隣の江別市に住む中学生で、命に別条はないものの、全治3週間ほどの大けがだと報じられている。

2人に面識はなく、逮捕された少年は調べに対し「殺すつもりで胸を刺した」と認めているという。

学校帰りの子どもたちが歩く夕方の住宅街で、中学生が中学生の胸を狙ったのだ。

ネットでは、少年法を見直すべきだという声が一気に広がっている。

ただ、現場には2つのグループの中学生がいたと報じられていて、この事件は「知らない相手をいきなり刺した」だけでは片づかないようだ。

そして、過去の似た事件の処分を見ると、この14歳は、多くの人が思っているよりずっと早く社会へ戻ってくる可能性がある。

今回は、この事件の背景と、「北海道は少年事件が多い」という声が本当なのかまで、順番に見ていこうと思う。

「殺すつもり」と認めた14歳

報道によると、アイスピックで刺されたのは胸の1か所で、刺したとされる少年は、一緒にいた友人らとその場から立ち去っている。

刺された中学生は病院へ運ばれ、意識はあったという。

警察への通報は、刺された中学生を病院へ運んだ消防からだった。

 

そこから警察は、現場のまわりの防犯カメラの映像を集め、その場にいた関係者からも話を聞いて、少年を割り出していった。

見つかったのは同じ日の夜10時15分ごろで、帰宅する途中のところを捜査員が見つけ、その場で逮捕したと報じられている。

刺してから、およそ6時間後のことだ。

このニュースでいちばん背筋が冷えたのは、やはり「殺すつもりで胸を刺した」という一言だ。

恨みのある相手を刺したというなら、なぜそうなったのか、まだ想像はつく。

ところが今回は、名前も知らない相手の胸を、殺すつもりで刺したと話しているのだ。

実際、ネットでも「面識もなく殺すつもりだったは、とてつもなく怖い」という声が相次いでいたが、そりゃそうだろう。

 

もうひとつ、ネットには、なぜわざわざ「殺すつもり」なんて言ってしまうのか、と戸惑う声もあった。

たしかに、これが大人の容疑者なら、ここは言葉を濁すところかもしれない。

 

なぜ14歳がわざわざそう話したのかは報じられていないが、実は、この「殺すつもり」という一言は、自分の罪を重くする言葉でもある。

同じように人を刺しても、殺すつもりがなければ傷害、殺すつもりがあれば殺人未遂になるからだ。

弁護士の解説によると、殺すつもりがあったかどうかは、本人の言葉に加えて、凶器の種類や、体のどこを狙ったのか、どう刺したのか、刺す前とあとに何をしたのかまでをあわせて判断されるという。

心臓のある胸を狙えば、あとから「殺すつもりはなかった」と言っても、その言い分は通りにくいそうだ。

東苗穂の交差点にいた10人ほどの子ども

「面識がない」と聞くと、通りすがりの子をいきなり襲った、いわゆる通り魔のような事件をどうしても思い浮かべてしまう。

ところが実際は、どうも少し様子が違うようなのだ。

現場の路上には、刺した側と刺された側、それぞれの友人を含む中学生のグループが集まっていたという。

近くに住む人は、テレビの取材に「交差点のまわりには中学生くらいの子ども10人くらいはいましたね」と話している。

北海道のテレビ局は、警察の話として、2組のグループのあいだで何らかのトラブルがあり、そこから事件に発展したと伝えている。

肝心のそのトラブルの中身は、まだ報じられていない。

 

ただ、グループ同士のトラブルが元だったとしても、それで怖さが薄まるかというと、まったく逆だと思う。

トラブルの相手が誰であれ、10人ほどの子どもが見ている前で、名前も知らない中学生の胸がアイスピックで狙われたのだ。

刺したあと一緒に現場を離れた友だちも、ただの見物人では済まないかもしれない。

逃げるのを手助けしたり、警察に嘘の話をして少年をかばったりすれば、犯人隠避という罪に問われることがあるからだ。

現場は公園や住宅が並ぶ静かな地域で、近くには、子どもの友だちのつながりで話が回ってきた親もいる。

笑いまじりの投稿だが、「長男の友達の友達」と書くくらい、地元の子どもたちのすぐ隣で起きた事件だ。

 

どこの中学校の生徒なのかについて、分かっているのは、逮捕された少年が札幌市東区に住む中学生で、刺された中学生は江別市に住んでいるということくらいだ。

 

それでも事件のあと、現場の近くにある中学校の名前を挙げて、「あそこの生徒じゃないか」と当たりをつけようとする投稿まで出回っている。

とはいえ、札幌市の統計では東区だけで中学校が14校あり、現場の近くというだけで1校に絞れるものではない。

学校の名前がどの報道にも出てこないのは、少年法が、事件を起こした少年が誰か分かるような報道を禁じているからだ。

 

学校のほかにも、ネットでは東区の治安や、少年の家庭を気にする書き込みが飛び交っている。

ところが、地元で暮らす人の受け止めは少し違う。

札幌市がまとめている2025年の区ごとの犯罪の数では、東区の刑法犯(窃盗や暴行など、刑法にふれる犯罪)は札幌10区で3番目に多い。

ただ、26万人ほどが暮らす大きな区なので、人口あたりに直せば市の平均並みで、地元の人が言うとおり、東区がとくべつ危ない区というわけではない。

それでも、暴行や傷害、脅迫のような乱暴な犯罪だけは、東区で前の年から3割以上増えている。

14歳が持っていたアイスピック

この事件でもうひとつ多くの人が引っかかっているのが、凶器だ。

ナイフでも包丁でもなく、アイスピック…。

ネットには「バーの店員じゃないんだから日常的にアイスピックなんて持たないわな」という皮肉も書き込まれていた。

中学生同士が集まる場に、なぜそんな物があったのか?

アイスピックそのものは、ホームセンターや100円ショップでも売られている台所の道具だ。

 

刃物の持ち歩きを禁じる銃刀法は、刃の長さが6センチを超える刃物が対象なので、刃のないアイスピックは対象にならないかもしれない。

それでも軽犯罪法では、人の命を害するような器具を、正当な理由なく隠して持ち歩くこと自体が禁じられていて、理由もなくポケットに入れて歩いていい道具ではない。

 

 

今回の少年がどこでアイスピックを手に入れ、なぜ持っていたのかは、まだ報じられていない。

もし、相手のグループと顔を合わせる場へ、最初から持って行ったのだとしたら、話はかなり重くなる。

逆に、ふだんから何となく持ち歩いていたのだとしたら、その道具はいつ誰に向いてもおかしくなかったことになる。

どちらにしても、14歳が持っていた1本のアイスピックが、13歳の胸に向けられるまでに、周りの友だちや大人の誰かが止められる場面はなかったのか。

北海道で増える子どもの非行

北海道そのものを心配する声もある。

「北海道の青少年犯罪多すぎない?」

「北海道ってヤバい土地なの?」

たしかに、ここ数年の北海道は、子どもや若者が関わる重い事件がたびたび全国ニュースになってきた。

  • 2021年 旭川市で中学2年の女子生徒がいじめを受けたあと、凍死した状態で見つかった
  • 2024年 旭川市で17歳の女子高校生が橋から落とされて亡くなった
  • 2024年 江別市で20歳の大学生が集団から暴行を受けて亡くなった

これだけ続けば、「北海道は何かおかしいのでは」と思いたくもなる。

 

では、実際に数字で見るとどうなのか?

 

北海道警察のまとめでは、2025年に事件を起こして警察に検挙された14歳から19歳の少年は、少年人口1,000人あたり4.0人で、全国の3.8人をわずかに上回った。

2021年までは全国より低く、2022年に並び、2023年から全国を上回るようになっている。

さらに、14歳未満で事件にかかわった子どもも、10歳から13歳の子ども1,000人あたり3.3人と、全国の2.3人よりはっきり多い。

2025年に非行で警察に検挙・補導(補導=悪いことを見つけて注意・指導すること)された少年の数を2016年と比べると、全国は16%ほど減ったのに、北海道は逆に15%ほど増えている。

 

「北海道は少年事件が多い」という声は、数そのものは全国をわずかに上回る程度だが、増え方で見ればはっきり当たっている。

ネットを1日5時間使う中学生

ネットでは、「アニメやゲーム、ネットの過激な動画の影響があるのでは」という声もあった。

昔のヒーローものは正義が悪を懲らしめる話だったが、今は簡単に人が傷つく場面が多い、という見方だ。

こども家庭庁の調べでは、中学生が平日にネットを使う時間は、1日およそ5時間24分にのぼる。

素人同士がケンカをして見せる格闘技イベント(ブレイキングダウンなど)の動画が、子どもに悪い影響を与えている、という声もよく見かける。

ネットやゲームだけが原因とは言えないが、今の中学生にとって、ケンカや暴力が「見ようと思えば画面の向こうで毎日見られるもの」になっているのは確かだ。

 

2021年11月には、大阪のディスカウントストアの屋上から、中学2年の女子生徒たちが買い物用のカートを落とし、14歳の生徒が殺人未遂の疑いで逮捕された事件があった。

そのときは、彼女たちが落とす様子を動画に撮っていたと報じられている。

屋上からカートを落とした動機について
ドンキからカートを落とした中2女子の動機や背景について考える 2021年11月26日(金)、大阪・住之江区のドン・キホーテ屋上から、中学2年女子たちが買い物用カートを落とすという事件があった...

あの事件から5年がたったが、中学生が殺人や殺人未遂の疑いで逮捕されるニュースは、その後も途切れていない。

 

14歳は少年法で守られるのか

ネットでいちばん目立ったのは、やはり少年法への怒りで、ニュースのコメント欄にはこんな声が並んだ。

「本人が殺すつもりだったと話しているのですから、少年だからという理由で軽く扱っていい事件ではありません」

「更生を支えることと、犯した行為に責任を取らせることは別です」

 

では、実際のところ14歳はどう扱われるのか?

日本の刑法には、14歳に満たない者の行為は罰しないという決まりがある。

裏を返せば、14歳になっていれば、刑事責任を問うことができるということだ。

ただ、責任を問えることと、大人と同じ刑事裁判にかけられることは別の話だ。

少年を大人と同じ裁判に回せる年齢は、昔は16歳以上だった。

2000年の少年法の改正で、それが14歳以上へ引き下げられたのである。

 

そのうえで、14歳から19歳の少年が事件を起こすと、警察や検察を経て、まずは家庭裁判所に送られるのが基本の流れになる。

家庭裁判所は、少年を少年鑑別所に入れて、性格や家庭の事情などを調べることがある。

そのあと、保護観察(家に帰したうえで、決められた人の指導を受けながら暮らさせる処分)にするのか、少年院に送るのか、大人と同じ刑事裁判にかけるために検察官へ送り返すのかを決めるわけだ。

 

では、この14歳が大人と同じ裁判にかけられる可能性はあるのか。

少年法には、16歳以上の少年がわざと人を死なせた事件は、原則として検察官へ送り返すという決まりがある。

今回は14歳で、刺された中学生は命を取りとめているので、この「原則」には当たらない。

14歳でも大人と同じ裁判に回されることはありえるが、そうするかどうかは、家庭裁判所が事件の中身や、少年が年のわりにどこまで物事を分かっているかを見て判断する。

そうならないかぎり、この14歳の行き先は、少年院か保護観察のどちらかになる。

ネットには、「もし年齢が逆だったら大変なことになっていた」という指摘もあった。

刺した側が13歳だったら、刑法の上では罰することができず、「触法少年」として、まずは児童相談所(子どもの保護や指導をする行政の窓口)の扱いになる。

たった1歳の差で、法律の扱いがここまで変わってしまう。

「子どもだから」で終わらせてほしくない、という声には、子を持つ親として、ひとつも反論が浮かばない。

7時起床・21時就寝の鑑別所

逮捕された14歳は、長くて3週間ほど警察に留め置かれたあと家庭裁判所へ送られ、多くの場合は少年鑑別所に入って、4週間ほど調べを受けることになる。

長ければ、逮捕から処分が決まるまでに2か月近くかかる計算だ。

 

少年鑑別所の1日は、法務省の案内によるとこうなっている。

  • 7時 起床・洗面
  • 7時30分 朝食・点呼
  • 10時 面接・心理検査
  • 13時 学習・講話
  • 17時 夕食・点呼
  • 18時 日記を書く
  • 21時 就寝

原則として、昼も夜も自分の部屋で過ごし、その部屋もできるかぎり一人部屋だ。

着る服も布団も、施設から借りたもので過ごす。

家族が会いに来ても、そばには職員が立ち会う。

 

札幌少年鑑別所は、事件の現場と同じ東苗穂の中にある。

鑑別所での調べのあと、少年院に送られたとしても、そこにいる時間は、多くの人が思うほど長くない。

義務教育を終えていない子が入る少年院の課程は、短いもので「6か月以内」、長いもので「2年以内」が目安とされている。

少し古いが、2016年に少年院を出た子を法務省が調べたデータでは、1年以内に出たのが約6割、1年4か月ほどまでに約9割が出ていた。

 

前例もある。

2025年5月に千葉市で84歳の女性を刺して死なせた15歳の中学3年生は、4か月後の9月に、家庭裁判所で少年院送致が決まった。

大人と同じ裁判には回されていない。

2025年12月に岩手県北上市で男性を刺し、殺人未遂の疑いで逮捕された15歳の中学生は、家庭裁判所に送られる段階で、理由は明らかにされていないものの、疑いが傷害に切り替えられた。

そのうえで、少年院送致が決まっている。

 

名前も知らない相手の胸を殺すつもりで刺した14歳が、少年院に送られたとしても、1年たたずに社会へ戻ってくるかもしれない。

胸を刺された側からすれば、1年という時間は、あまりにも短すぎる。