新庄剛志ビッグボスは、インタビューに答える時に「そうですね」は禁句だと選手たちに指導している。
スポーツ選手がお立ち台でヒーローインタビューを受ける時、まず「そうですね…」と言いがちなのは結構“あるある”だ。
しかし、新庄ビッグボスにはある考えがあって、選手たちに「そうですね」を禁止にしている。
今回はその理由について徹底的に解説しこうと思う。
新庄ビッグボスが「そうですね」を禁句に
2021年11月末に行われた北海道日本ハムファイターズのファン感謝祭のとある一幕。
新庄剛志ビッグボスが、野村佑希内野手のインタビューの受け答えについて、公開でダメ出しを行った。
インタビュアーから来年の意気込みを聞かれた野村祐希の「そうですね」に対し、新庄ビッグボスは「『そうですね』はいらない!」と切り捨てたのだ。
といっても、決して怒っているわけではなく自然な感じで「自分の思ったことを素直に話せばいいだけ」「良いことを喋ろうと思ったらダメだよ」と理由を添えてアドバイス。
そして、日本ハムファイターズの中で「そうですね」が禁句だということがニュースで報じられ、世間からはこんな声が聞かれた。
- 「そうですね」はサッカーでもよく言うよね
- 確かにどのスポーツ選手も言ってるよな…
- 個性が薄れるので禁句にするのはアリ
- 長年誰も言わなかったけど良い指導だと思う
- そこまで徹底すると逆に萎縮するのでは?
- 新庄監督、結構きびしいな…
- 別にそこまで気にならないけど
- これはインタビュアーの質問が悪いせい
ビッグボスが「そうですね」を禁句にしたことについては、世間でも賛否両論上がっている。
しかし、これは新庄剛志が監督になったから言い始めたことではなく、実は現役時代から気をつけていたことだったのだ。
「そうですね」を言ってはいけない理由
新庄剛志が北海道日本ハムファイターズの監督に就任した際、自身のことを「ビッグボス」と呼んで欲しいとアピールした。
新庄監督、とか僕いらないですね。監督ぽいじゃないですか。インドネシアバリ島の方で、ビッグボスと呼ばれてたので、それで(笑)
そんな新庄ビッグボスがファイターズに注文するのは、とにかく『メンタルを強くする』ということ。
プロ野球選手の実力というのは、どれも大差ない。であるならば、自分が得意な『メンタルを引き伸ばす』という部分を重点的に行なって、そこからチームを引っ張っていってくれるタレントを作り出す。そうすれば、自ずとチームが強くなるという考えだ。
「そうですね」を言ってはいけない理由も、そこからきている。
たとえば、新庄ビッグボスに言わせると次のようなヒーローインタビューは0点なのだそうだ。
終盤に勝負を決める逆転タイムリーを打った選手が、お立ち台に呼ばれる。
──連敗を4で止める、値千金のサヨナラヒットを打ちました、◯◯選手でーす!
(手を振りながら大歓声に応えて)「ありがとうございます!」
──チャンスで打席がまわってきたときの気持ちは?
「そうですね…やるしかないと思いました」
──すばらしいヒットでしいた。打った感触は?
「えー……そう……ですねー……とてもいい感触でした」
──最後に、ファンのみなさんにメッセージを!
「そうですねえ……最後まで熱い応援、ありがとうございました。えー……僕たちは優勝をあきらめていないので、今後も応援よろしくお願いします!」
出典:もう一度、プロ野球選手になる。 新庄剛志著
これが0点である理由は、『まったく記憶に残らないから』とのこと。
たしかにある意味テンプレのようなヒーローインタビューではある。
では新庄剛志が現役だったころ、どんな感じだったのだろうか。
プロ初サヨナラホームランにて。
「優勝です!」
敬遠球のサヨナラ安打にて。
「明日も勝つ!」
2004年オールスターMVPにて。
「これからは、パ・リーグです!」
スト明けのサヨナラ安打にて。
「今日のヒーローは、ぼくじゃありません! みんなです!」
余談だが、敬遠球を打った日とは別の時に「明日も勝つ!」と言った後、阪神が12連敗したこともあったので、一時期ヒーローインタビューでの「明日も勝つ!」は阪神ファンの中で禁句中の禁句となったこともある(笑)
新庄剛志は現役時代、とにかくファンを楽しませることを常に意識していた節がある。
「何を言ったらファンが喜んでくれるか」
「どうしたらもっと多くの人が球場に足を運んでくれるか」
そのために『今日はヒーローインタビューだな』と思った試合では、頭の中をフル回転させて何を喋ろうかを考えていたのだそう。実際、そこまで考えてお立ち台に上がる選手は少ないと新庄ビッグボスは指摘している。
そんなこともあって、阪神タイガースに在籍していた頃は、新庄が出場するかしないかで甲子園の1日の売上が0.5~1億円も変わったそうだ。凄い。
そして、日ハムでの現役時代を振り返り、次のように語っている。
プロ野球選手もキャラはそれぞれ。しゃべりが苦手な選手がいるってことは、ぼくだって知っている。でも、ぼくのように派手に決められなくても、それぞれのキャラで記憶に残る表現ができると思う。
例えば、(中略)
「そうですね」と「えー」を言わないようにする。
「そうですね」が繰り返されると、テンションが下がっていくからだ。
そんな理由で、ぼくは日本ハムでお立ち台改革の手始めに「そうですね禁止令」を出した。
これは思ったより効果があった。
「そうですね」というのは、ある種の時間稼ぎだ。
「そうですね……」と言いながら、頭の中で何を言おうか考える。
その時間稼ぎができなくなって、チームメイトはあらかじめなにを言うか考えるようになった。そう、準備をするようになったのだ。
準備をするようになると、今度はそれを見せたくなる。
そこから質問を待つだけだった待ち姿勢が、どんどん前向きなものに変わっていった。
ぼくがちょくちょくお手本を見せたこともあって、
「俺も、おもしろいことを言いたい!」
「ファンのみんなを楽しませたい!」
そんなふうに積極性が出てきたのだ。
お立ち台で皆を楽しませようとしたら、もちろん試合で活躍しなきゃいけない。
俺が! いや俺が! というふうに、いい意味での競争意識がチームに出てきた。
(中略)
言葉ひとつを変えるだけで、内面や行動が代わり、やがて結果が出るようになるんだ。
出典:もう一度、プロ野球選手になる 新庄剛志著
新庄ビッグボスが「そうですね」を禁止にしたのは、選手たちに前向きな姿勢で一試合一試合を臨んでもらいたかった、そんな意図があるのだろう。
プロの世界は非常に厳しい世界だが、楽しみながらその厳しい世界を勝ち抜こうというところはビッグボス流だ。
選手がこういったパフォーマンスを楽しめると、見ている観客だってもちろん楽しくなってくる。
錦織圭も「そうですね」を反省?
先日、男子プロテニスの錦織圭もとあるイベントで、報道陣の取材に「えー、そうですね…」と語った後、「あ、言っちゃった。新庄さんがダメって言っていたのに」と話す場面があった。
新庄剛志ビッグボスが選手へ出した禁句を、錦織圭が意識しているところは非常に興味深い。
プロのトップアスリートにはスポンサーが付いているものだが、そのために各種イベントに出演依頼をされることも多い。
その時にいちいち受け身ではやっぱり物足りなさを感じるし、プロアスリートは個人事業主みたいなものなので、やはり言葉で人を楽しませる発信力は欲しいところだ。
となると、どんなアスリートでも「そうですね」とか「えー」といった相槌についてもう少し神経質になってもいいかもしれない。
もちろん、結果を出すことが何よりも大切なのは言うまでもないことだが、せっかく人々の注目が集まっているところで無難なことを言うよりも、多少のリップサービスができるくらいの余裕があったほうが聞いてる側も楽しいものだ。
それにしても、大谷翔平の二刀流についてはあまり凄さがわからないと言っていた錦織圭だが、新庄ビッグボスの「そうですね」禁止を知ってるところは面白い(笑)
新庄ビッグボス率いる北海道日本ハムファイターズの選手たちのヒーローインタビューのハードルが上がったことは間違いないが、それ以上にファンの注目も集まることだろう。
このようなファンサービスの向上を選手たちのモチベーションアップに繋げるところは、素直に凄い指導力なのではないかと思う今日このごろである。